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『ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル!』ヘヴィ・メタルの辺境性が「映画」を咆哮させる

『ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル!』ヘヴィ・メタルの辺境性が「映画」を咆哮させる

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辺境=隅っこでもがくものたちの強み



 北緯約60度に位置するフィンランドは北極圏に接しており、夏には白夜が訪れる。少なくとも地理的には「辺境の国」と言って差し支えあるまい(「極東」に位置する日本もまた辺境の国であり、ヘヴィ・メタル人気が高い)。


 主人公たちの住むのはフィンランドの中でも辺境の村で、恋人はおらず、友人も少ない。チンピラからはロングヘアをバカにされ、ちょっと変わり者扱いされている。つまり彼らは「地理的辺境」の中で、さらに人間関係でも「辺境」に閉じ込められていると言えるだろう。


 さらにバンドに加入するドラマーは、自らを「ラップランド人」だと名乗る。ラップランドは「辺境」と言う意味で差別的な意味も含んでいる。本来はサーミ人という先住民で、主にフィンランド、スウェーデン、ノルウェーにまたがる地域に住んでいる。近年では、映画『サーミの血』(16)でも描かれたが、彼らはかつて迫害、隔離されてきたアイヌやネイティブ・アメリカンと似た被差別の歴史を持つ。サーミ人もまた社会的に辺境の人々なのだ。




 こうした辺境性の横溢するバンドだが、では彼らの中に「辺境から中央へ」、「マイナーからメジャーへ」という「上昇志向」があるかと言えば、それは全く違う。彼らは辺境性に留まることで、辺境人だから持ち得るメランコリーを地獄のギターリフとブラストビートで世界へ発信しようと苦闘する。そこがこの作品を特別で感動的なものにしている。主人公のボーカリストが発するグロウル(咆哮)はまるで世界に対して自らの腹中にあるものを吐きかけるような気合に満ちており、そして実際に「そのもの(!)」としても観客に放出される


 劇中にはこんな最高なセリフもある。「一生便秘よりは、クソをもらしたほうがマシだ」


 嘔吐や排泄のイメージが繰り返される(バンド名が『直腸陥没』)が、不思議とそこには社会への敵意や、ねちっこいルサンチマンは感じられない。それは自らの内なる思いを率直に「吐き出そう」とする、辺境者の不器用な表現手段の暗喩にもなっているのだろう。




 最後に書いておきたいのは、ライヴシーンだ。ライヴシーンはバンド映画では絶対にはずせない。もちろん『ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル!』でもライヴシーンが用意されているが、そこに至る流れと、ライヴそのものが、最高の仕上がりになっている。ヘヴィ・メタルを避けてきた人でも必ず拍手喝采してしまうことをお約束しよう。



取材・文: 稲垣哲也

TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)。



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作品情報を見る



『へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』

12月27日(金)よりシネマート新宿&心斎橋ほかにてロードショー!

提供:キングレコード+スペースシャワーネットワーク

配給:SPACE SHOWER FILMS

(c)Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018

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