2020.01.13
陶芸教室に受講希望殺到!名場面の舞台裏
♪ 愛しい人よ。狂おしいほど貴方に触れたいんだ ♪
ライチャス・ブラザーズが切々と歌い上げるラブソング「アンチェインド・メロディ」に乗せて身体を寄せて陶芸をするサムとモリー。『ゴースト/ニューヨークの幻』を代表する有名なワンシーンだ。劇場公開後にアメリカ中の陶芸教室に受講希望が殺到した、というウワサも真しやかに聞こえる、トロットロにロマンチックな名場面である。
『ゴースト/ニューヨークの幻』を、この場面が象徴するようなロマンチックな恋愛映画だというイメージを持っている人は少なからずいるだろう。そもそもキャッチコピーからして「不思議な愛のファンタジー・ドラマ」「泣けるラブ・ストーリーの決定版」「感動と興奮に満ちたラブ・ストーリーの傑作!」とラブラブラブラブかまびすしいものだ。
主演のパトリック・スウェイジは本作以前に、情熱的なダンスを披露したラブロマンス映画『ダーティ・ダンシング』(87)の大ヒットがあり、パトリック・スウェイジの姿にセクシーなダンス姿をダブらせた女性も多くいただろう。また、デミ・ムーアも『きのうの夜は…』(86)で見せた大胆なヌードと濡れ場が話題になっており、やはり色濃く情愛を匂わせるキャスティングであった。
しかし、このロマンチックな陶芸シーンには、ジェリー・ザッカーが連綿と培ってきたナンセンス・ギャグ映画のテクニックを流用しているフシがある。
最初の脚本でモリーは彫刻家として設定されていたがジェリー・ザッカーの提案により陶芸家へ変更されたそうだ。物語上の必要性は無いことからも、この陶芸シーンのための設定変更であろう。
ノースリーブの白いシャツだけの姿でろくろに向かい濡れた粘土を回すモリー:デミ・ムーア。上半身裸で見事なシックスパックを披露しながらサム:パトリック・スウェイジがモリーの後ろに座ると、しばらくはモリーの作業を見ているが、粘土にさわり出来かけた器を壊してしまう。
しょうがないわ、と粘土を塊りに戻し、またろくろを回し、今度は2人で形を作り始める。粘土は棒状に起立しはじめるが、サムとモリーは情熱的に唇を重ね、起立した粘土を放って愛しあい始める。
『ゴースト/ニューヨークの幻』TM & COPYRIGHT (C) 1990 BY PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.TM, (R) & Copyright (C) 2014 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
もちろん、この場面の「起立した粘土」は男性器の隠喩だ。その証拠に劇中でサムの死後、モリーはもう一度ろくろに向かい粘土をこねるが、棒状の粘土はグニャリと折れてしまう=男性の不在を表わすのである。
何か別の物を男性器に見立てるという手法はコメディの常套手段で、特に男性器ネタは笑いを起こす鉄板ネタになるが、文脈を変えればロマンチックで情愛に溢れたセクシーな場面になると、ジェリー・ザッカーは発見したのである。
この陶芸シーンは、本作の優れたサスペンス・スリラーである面を覆い、ラブ・ロマンス映画として認知させ、大ヒットを記録するのである。
そして、大ヒット映画の宿命としてパロディの標的にもなってしまう。演じるのはレスリー・ニールセンとプリシラ・プレスリー。その作品とは、もちろんZAZプロデュースによる『裸の銃を持つ男2 1/2』(91)である。
文: 侍功夫
本業デザイナー、兼業映画ライター。日本でのインド映画高揚に尽力中。
『ゴースト/ニューヨークの幻』
Blu-ray: 1,886 円+税/DVD: 1,429 円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
TM & COPYRIGHT (C) 1990 BY PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.TM, (R) & Copyright (C) 2014 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.
※ 2020年1月の情報です。
(c)Photofest / Getty Images