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本物のレースと生身のドラマ『フォードvsフェラーリ』を爆速させる“ツインエンジン”

(c)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation

本物のレースと生身のドラマ『フォードvsフェラーリ』を爆速させる“ツインエンジン”

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とっつきにくいテーマを覆す「熱量」



 ただ、『フォードvsフェラーリ』が「誰でも観られる」映画に見えていたか(中身ではなく、第一印象として)といえば、必ずしもそうとは言えないだろう。マット・デイモン、クリスチャン・ベール、『LOGAN/ローガン』(17)のジェームズ・マンゴールド監督と錚々たるメンバーが揃っているが、扱うテーマはライト層向けとは言いがたい。


 そもそも、『フォードvsフェラーリ』なんてタイトルを聞くと、当時を知らない世代は「予備知識が必要なのでは……?」とちょっと身構えてしまうのではないだろうか。さらにポスターや予告編からにおい立つのは、「車」「友情」「熱血」といった「ザ・男臭い」要素の数々。公開当時のタイミング的に賞レース向けの作品であることは明白で、クオリティは間違いなく「必見!」レベルだが、形態としてデートムービーでもファミリームービーでもグループムービーでもなく、想定されるターゲットがかなり狭い映画といえる。



『フォードvsフェラーリ』(c)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation


 例えば、『パラサイト/半地下の家族』(19)であれば設定の面白さとミステリー要素、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)であればクエンティン・タランティーノ監督のブランド力とレオナルド・ディカプリオ×ブラッド・ピットの初顔合わせなど間口が広い「売り」が用意されているが、特にふざけることなく至って真面目な本作は、なかなか若者やライト層を誘致しづらい。


 ちなみに本作は約10年もの間実現しなかった企画であり、一時期は『ヒート』(95)のマイケル・マン監督とブラッド・ピットで、その後は『トップガン マーヴェリック』(20)のジョセフ・コシンスキー監督とトム・クルーズで進んでいた。しかし企画はとん挫し、現在の形に落ち着いた。あくまで邪推だが、採算がとりにくいプロジェクトだったのだろう。所々の問題をクリアして製作にこぎつけた『フォードvsフェラーリ』においても、乱暴な言い方をしてしまえば「初心者がとっつきにくい」印象があるように思う。


 だが、それはあくまで「イメージ」。この作品の中身は、非常に普遍性にあふれた「働く人」のドラマだ。レースシーンにおいても、圧巻の臨場感だけでなく、思わず見入ってしまうスペクタクルやスリルがしっかりと盛り込まれており、語り口も“一見さん”を排除しない親切な設計となっている。確かに「車」「友情」「熱血」は本作の屋台骨だが、ルールを知らなくてもW杯やオリンピックに胸を熱くさせられてしまう現象に似た「リアルな熱」が、そこにはある。その無二のエネルギーこそが、世界でこれだけのヒットを叩き出している“理由”と呼べるのではないだろうか。


 『フォードvsフェラーリ』(c)2019 Twentieth Century Fox Film Corporation


 つまり、『フォードvsフェラーリ』は、劇場に足を運びさえすれば、確実に「ハマる」映画であるということ。そして、着席した人々がフルスロットルで突き進む作品に魅入られたとき、「実話」というキーワードがぐっと力を発揮し始める。目の前で行われている事象における「説得力」がまるで違ってくるのだ。最大の見せ場となるル・マンのレースシーンでは、その意味を存分に感じられることだろう。


 ここからは、本作の「熱量」に重きを置いて、「ストーリー」「演出や映像」「演技」などの側面から魅力に迫っていきたい。



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