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『バリー・シール/アメリカをはめた男』アメリカの黒歴史を暗躍した実在パイロットの人生とは?

(c) Universal Pictures

『バリー・シール/アメリカをはめた男』アメリカの黒歴史を暗躍した実在パイロットの人生とは?

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世界を騒がせたレーガン共和党政権のスキャンダル「イラン・コントラ事件」とは?



 この武器密輸が、1986年に発覚して国際的なスキャンダルとして騒がれた「イラン・コントラ事件」である。

 政治的な図式を整理しておくと、当時のニカラグアはキューバ革命(カストロやゲバラによる武装解放闘争。思想的には社会主義・反米となる)の志を受け継ぐ左翼組織、サンディニスタ民族解放戦線が革命を成功させて政権を取っていた。このサンディニスタ政権のニカラグアを、アメリカのレーガン政権は「第二のキューバ」になることを怖れていたわけである。ちなみにイギリスのパンク・バンド、クラッシュは、この左翼革命に多大な刺激を受け1980年に名盤アルバム『 サンディニスタ!』を発表した。

 そこへの対抗勢力として台頭してきた右派ゲリラが、コントラだ。この親米の傭兵たちの全面バックアップを、レーガン政権はイランへの武器売却代金を流用する形で行っていた。言わばニカラグアの政府転覆を図るテロ組織をアメリカ政府が支援していたわけだ。 
この国家的な犯罪が暴露された時、レーガン大統領が「私自身は知らなかった」という主旨の記者会見をホワイトハウス内で開いたことは有名である。結果的にこの釈明(言い逃れ)で彼本人の政治生命にはさほど傷がつかなかったことから、「テフロン大統領」(テフロン加工の傷がつきにくい鍋に喩えた揶揄)と皮肉を言う声もあったという。

 さて、バリー・シールの話に戻ると、要するに彼はホワイトハウスとコロンビア麻薬組織メデジン・カルテルの二重取引で違法ビジネスを働いているうち、「イラン・コントラ事件」の鍵を握る主要人物のひとりになっていたのだ(ちなみにこの辺のキーパーソンとして欠かせないパナマの独裁者マヌエル・ノリエガは、CIAともメデジン・カルテルとも、さらにカストロやサンディニスタなど反米・左派勢力とも、ひたすら利害関係のみで多重に結びついていたという節操のなさだ)。

 もっとも完全なノンポリのバリーには、勤め先の会社の命令に従いながら裏バイトでも荒稼ぎしてたら、なんだかめっちゃ大変なことになってるんですけど!くらいのシンプルな自意識しかなかっただろう。冷戦時代の末期、世界に渦巻く負のスパイラルに同期しながら、計らずも時代のハードコアな現場を渡り歩いたという意味では「裏フォレスト・ガンプ」的な人物と言えるかもしれない。


『バリー・シール/アメリカをはめた男』(c) Universal Pictures

 『バリー・シール/アメリカをはめた男』はスタッフの徹底したリサーチのもと、このアメリカの黒歴史の中で暗躍した「ビッグな小悪党」にまつわる出来事を、時代・社会背景と共に細かく描いてくれている。だが一方、まるっきり事実と違うのが「ルックス」である。バリー・シール(Barry Seal)でググッたら一発でわかる。トム・クルーズとは似ても似つかない、二重あごで太鼓腹のおっさんの画像がたくさん出てくるはずだ。奥さんは映画のサラ・ライト・オルセンに負けないくらい美人だけど(ちなみにふたりの息子さんとひとりの娘さんがいる)。



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