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『バリー・シール/アメリカをはめた男』アメリカの黒歴史を暗躍した実在パイロットの人生とは?

(c) Universal Pictures

『バリー・シール/アメリカをはめた男』アメリカの黒歴史を暗躍した実在パイロットの人生とは?

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これまでにバリー・シールを演じた俳優たちと、その作品について



 とにもかくにも、これだけ強烈な「歴史上の人物」だけあり、バリー・シールは過去にも映画やドラマ作品に数度登場している。

 初めてバリー役を演じた俳優は、デニス・ホッパーだ。『裏切りの代償』(1991年/監督:ロジャー・ヤング)というテレビ用映画で、もちろん主演である。ホッパーは当時55歳だから、奇しくも現在のトム・クルーズと同じ年齢だ(バリー・シール本人は享年46歳)。

 しかし作風は『バリー・シール/アメリカをはめた男』とはずいぶん違う。低空飛行の偵察機から梱包された麻薬をボンボン落としていく様子などは豪快に再現されていたが、バリーのキャラクターはホッパーの個性に合わせてエキセントリックな狂気が強め。総体としては大局に翻弄され、悲惨な末路への過程を見据える重苦しい味わいだ。ラストにはレーガン大統領の「釈明」記者会見の動画が使われている。

 この作品は残念ながらDVDが未発売。かつてはVHSテープで気軽に観ることができたのだが。実はYouTubeに丸ごと上がっていたりもするのだが(原題“DOUBLECROSSED”で検索されたし)、当然にも字幕なしなので、ぜひ日本版DVD化を希望!とリクエストしておきたい。

 そこから時代は飛び、続いてバリーが登場したのはNetflixの人気ドラマシリーズ『 ナルコス 大統領を目指した麻薬王』のシーズン1(2015年)。ほんのチョイ役だが、第4話「炎に包まれた正義宮殿」で、ディラン・ブルーノが売春宿でDEA(麻薬取締局)に逮捕される髭面のゴツい運び屋のバリーに扮した。さらにDEAのベテラン潜入捜査官のロバート・メイザーが、メデジン・カルテルの中枢に決死のおとり捜査を行う内幕を描いた映画『 潜入者』(2016年/監督:ブラッド・ファーマン)では、バリーがメイザーと競馬場で接触する中盤のシーンで、マイケル・パレが体重を35ポンド(約15キロ)増量させて登場。ずんぐりむっくりの体型で、この役作りは実際のバリーのルックスに似せたものだ。

 以上、基本的にリアル&シリアス路線の過去三作品に比べると、『バリー・シール/アメリカをはめた男』はトム・クルーズの「スター映画」でもある。彼の王道の華やかさが、実話をどこかフィクショナルな面白さ――ホラ話のような夢心地に変換しているところがあるのだ。同質の味わいとして、例えばレオナルド・ディカプリオ主演の『 キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002年/監督:スティーヴン・スピルバーグ)や『 ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年/監督:マーティン・スコセッシ)を連想する人は多いのではないか。

 バリー・シールの期間限定の極端な栄光と転落は、アメリカという欲深い大国の病理や中南米の闇と一体化したもの。その能天気な犯罪性にモラリスティックな判断を持ち込まず、アッパーな狂騒劇として描いたのが本作のユニークな基本線であろう。寂れたド田舎に専用の飛行場を構え、稼いだ大金の一部が自宅のあちこちからはみ出してくる辺りなど、馬鹿馬鹿しくも快楽中枢を刺激するバブリーな沸騰感に溢れている。超絶にブラックでシニカルながら、痛快。この両義性が『バリー・シール/アメリカをはめた男』という傑作の魅力である。



映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「メンズノンノ」「キネマ旬報」「映画秘宝」「シネマトゥデイ」などで定期的に執筆中。








『バリー・シール/アメリカをはめた男』
配給:東宝東和  (c) Universal Pictures

※2017年10月の情報です。

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