(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
『ムーラン・ルージュ』の名匠バズ・ラーマンを支えた父の言葉と、インド映画から受けたインスピレーション
インド映画から受けた影響とは?
この映画の構想は長い時間をかけてじっくりと醸成されてきた。もともと監督には「次回作はミュージカルを!」という思いが強くあり、それにふさわしい題材としてオルペウス(オルフェ)にまつわるギリシア神話に目をつけていたという。天賦の才能を持った吟遊詩人が、愛する人を救おうと冥界を旅するストーリーである。
そこに90年代の初め、オペラ「ラ・ボエーム」のリサーチのために訪れたパリの街、そして歴史的名所“ムーラン・ルージュ(赤い風車)”の存在がインスピレーションを与える。さらにオルペウスの神話には「椿姫」や「ラ・ボエーム」やエミール・ゾラの「ナナ」などが重なり、これらを下敷きにした独自のストーリーが形成されていった。
『ムーラン・ルージュ』予告
さらにもう一つ。ラーマンに大きな転機をもたらしたもの、それがインド映画との遭遇だ。時は‘93年、オペラ版「夏の夜の夢」の製作にあたり、彼は物語の舞台を従来のものからインドのマハラジャの宮廷へ置き換えようと試行錯誤を重ねていた。そして実際にインドを訪れ、本格的なリサーチに励む過程で、たまたま鑑賞したボリウッド映画に衝撃を受けたのだ。
3時間半に及ぶ長尺にもかかわらず、観客の熱狂を冷ますことなく展開するこの神がかり的な手法。悲劇と喜劇が大胆に混ぜ合わされ、さっきまで誰もが笑っていたかと思えば、今度はとんでもない悲劇に胸を引き裂かれる。その激しい感情の波間をダンスとミュージカルが圧倒的なカタルシスを伴って埋めていく————。なるほど、この手法であれば感情の振れ幅が激しい「悲喜劇」を成立させることだって可能だ。
『ムーラン・ルージュ』(C)2013 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
果たしてこのインド映画の方法論を「西洋の物語」に応用することはできるのか?これはある種の賭けだったはずだが、最終的にラーマンは二つの文化を融合させ、見事に豪速球テンションの物語として紡ぎ上げた。それどころか、本作には登場人物たちが挑むクライマックスの「劇中劇」でもインド映画の影響を炸裂させる。まさにこのカルチャーなくして、本作の誕生はありえなかったのである。