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『地獄の黙示録 ファイナル・カット』戦場のカオスを描いた壮大なる叙事詩、新バージョン誕生の背景に迫る

(c)2019 ZOETROPE CORP. ALL RIGHTS RESERVED.

『地獄の黙示録 ファイナル・カット』戦場のカオスを描いた壮大なる叙事詩、新バージョン誕生の背景に迫る

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成就したIMAX化と、ジョージ・ルーカス版『地獄の黙示録』



 そして今回の『ファイナル・カット』は、先述の要素に加えて「IMAX上映」を実現させている。もちろん、製作当時のフィルムIMAXと現在のIMAXデジタルシアターではシステムが異なるが、同フォーマットに代表されるジャイアントスクリーンでの上映は、『地獄の黙示録』初期構想のひとつとしてあったものだ。

 

 もともとコッポラは『地獄の黙示録』を、自身のプロダクションであるアメリカン・ゾエトロープの自社製作として、『アメリカン・グラフィティ』(73)のジョージ・ルーカスに監督をさせる予定だった。そしてルーカスは、この『地獄の黙示録』を16mm撮影カメラとフィルムを用い、ニュースリールのようなドキュメンタリータッチで演出するプランを抱いていたのである(*4)。



『地獄の黙示録』(c)2019 ZOETROPE CORP. ALL RIGHTS RESERVED.


 しかし彼に代わって本作を監督することになったコッポラは、ルーカスの控えめなプランとは対象的に『地獄の黙示録』を「壮大な戦争オペラ」と捉え、特殊なプレゼンテーションで観客に提供するつもりでいた(*5)。専用の劇場を設け、そこで独占的に上映する興行スタイルを提唱。撮影はIMAXカメラでおこなってジャイアントスクリーンに投影し、さらには上映時間の制約を受けない利点を活かし、本作を長時間作品として完成させる道を考えていたのだ。


 だが映画会社ユナイテッド・アーティスツの資本が製作費に組み込まれたことにより、本作は一般商業映画としての公開をまっとうせねばならなかった。そして海外ロケを考慮したさい、大型のIMAXカメラや65mm撮影用のカメラは機動性を欠き、プリント代も膨大にかかることから35mmフィルム撮影へと変更。また悪いことに、フィリピンでの撮影は天候の影響や主役の交代、カーツ役のマーロン・ブランドの契約問題によって長期に及んだため、製作費は1,300万ドルから3,200万ドルへと膨れ上がってしまった。そこで劇場における1日の上映回数をできるだけ多くするため、短い編集は必須となり、上映時間を約2時間半に抑えざるをえなかったのである。



『地獄の黙示録』(c)2019 ZOETROPE CORP. ALL RIGHTS RESERVED.


 『ファイナル・カット』は2017年初頭、同バージョンのレストレーション・スーパーバイザーであり、アメリカン・ゾエトロープのアーキビストであるジェームズ・T・モッコスキが『地獄の黙示録』製作40周年の記念事業として監督に提案したのがプロジェクトの起点だ。しかしコッポラは新しいバージョンを作るつもりはなく、あくまで『特別完全版』を微調整的にクリーンアップし、映像やサウンドの改善に留めようとした。だが結果的に『ファイナル・カット』は、こうして監督自身が本来望んでいた諸条件を満たし、タイトルどおり最終形態とでもいうべき、究極のバージョンになったと断じていいだろう。



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