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ニール・ブロムカンプが『チャッピー』で暴き立てる、世界都市ヨハネスブルグの裏の顔
新時代の思想表現、ゼフ・カルチャーとは
現在の南アフリカでは、ブラックダイヤモンドと呼ばれる黒人高所得者層と、プアホワイトと呼ばれる白人低所得者層が形成されており、経済格差が問題視されている。とはいえ、黒人がみな高所得者というわけではなく、中には貧困にあえぐ者ももちろん存在するが、近年では同国における黒人優遇措置などの影響で、白人の貧困層が極めて増加傾向にあるようだ。
今日では白人至上主義的なヒエラルキーは崩壊しており、『チャッピー』ではその辺りの微妙な格差も浮き彫りにしている。南アフリカでは貧困に起因する非行、犯罪が都市部を中心に激増しており、生活困窮の打開策として、犯罪に手を染める人も少なくない。作中登場するニンジャとヨーランディの白人ギャングは、まさにプアホワイト的なキャラクターの最たるものとして描かれている。ふたりを演じるのは、南アフリカのラップグループ“Die Antwoord(ダイ・アントワード)”。ニンジャとヨーランディ・ヴィッサーはそれぞれ自分たちの名前そのままで映画に出演している。
2008年に結成されたダイ・アントワードは、自分たちの音楽スタイルを“Zef(ゼフ)”と定義し、その独自のカルチャーを世界中に広めた。作中でもニンジャの車のナンバープレートやアジトの壁などに“Zef”の文字を確認できるだろう。ゼフとは、南アフリカの白人低所得者層、つまりプアホワイトの間で生まれた新しいカウンターカルチャーであり、その思想を表現する、ある種のスラングなのである。つまり、自分自身をプアホワイトであると自認し、そのような自分たちを自己肯定する文化なのだ。
ゼフの語源については諸説あるが、一説では1970年代初頭まで普及した人気車“Ford Zephyr(フォード・ゼファー)”に由来すると言われている。ゼファーは白人の低所得者から人気を集めた車種で、いつしか車種名は“Zefr(Zephyrの略)”と短縮され愛称されるように。そこからさらに“Zef”と簡略され、プアホワイトを指し示す言葉へと変化した。現在では前述のようにカウンターカルチャー用語として肯定的な意味で使用されている。いわば『チャッピー』は、ダイ・アントワードのゼフ・カルチャーを標榜する、ある種のカウンターカルチャー的作品なのである。