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ニール・ブロムカンプが『チャッピー』で暴き立てる、世界都市ヨハネスブルグの裏の顔
犯罪多発都市、ヨハネスブルグ
南アフリカにおける白人の割合は、ここ数十年で急激に減少している。その主な要因は、白人に対する逆差別や失業率の上昇、または治安の悪化などが挙げられる。
ヨハネスブルグの犯罪発生率は極めて深刻であり、その治安の悪さは世界でもワーストクラス。近年においては改善の兆しも見えてきているが、それでも危険なイメージは払拭されていない。監督は、SF的な近未来を描きながら、ヨハネスブルグの暗部を真正面から描写している。
映画の舞台設定は、2016年のヨハネスブルグ(映画公開が2015年なので、その1年後の未来を描いている)。ヨハネスブルグ警察は、軍需企業テトラバール社の提案で、高度なAI(人工知能)搭載の自律型ロボット警察を導入する。不死身のロボ警官による取り締まりは、ヨハネスブルグの犯罪抑止に一定の成果を上げていた。この設定は、犯罪都市と化した米デトロイトを舞台にサイボーグ警官の活躍を描いた『ロボコップ』(87)そのものである。
『チャッピー』(c)2015 Columbia Pictures Industries, Inc., LSC Film Corporation and MRC II Distribution Company L.P. All Rights Reserved.
しかし、『ロボコップ』のサイボーグ警官と、『チャッピー』の人型ロボ警官とで大きく異なるのは、前者が生身の人間から生まれた半人半造であるのに対し、後者は無機質な人型機械であるという点だ。『チャッピー』では、大量に製造されたロボ警官の内の1台が自我に芽生え、本来であれば犯罪を抑止する立場であるはずが、無意識に犯罪に加担する姿が描かれている。すなわち『チャッピー』は、人口知能が人間の能力を超える“シンギュラリティ”を描いているのだ。
自我に目覚めるロボ警官“チャッピー”を演じるのは、監督作品の常連俳優シャールト・コプリー。本作では、最新のモーション・キャプチャを駆使し、チャッピーのリアルな挙動(およびボイス)を担当している。コプリーも監督と同じく南アフリカ、ヨハネスブルグの出身。映画の大半のシーンも彼らの故郷であるヨハネスブルグで撮影されている。つまりこの映画のフィクションの部分はロボ警官の存在くらいで、それ以外の世界観は実際のヨハネスブルグとなんら変わりなく描かれている。現実と虚構、その独特の線引きこそ、ブロムカンプ作品の魅力なのであろう。
<参考>
映画『チャッピー』劇場用プログラム
1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「IGN Japan」「リアルサウンド映画部」など。得意分野はアクション、ファンタジー。
『チャッピー』
ブルーレイ発売中 ¥1,800+税
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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