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『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』ロックとポップと片割れ探し

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哲学者プラトンの『饗宴』をベースに、神話の世界を飛び回る



 「オリジン・オブ・ラブ」の曲の下敷きになっているのは、古代ギリシャの哲学者プラトンの著作『饗宴』だ。ジョン・キャメロン・ミッチェルはスティーヴン・トラスクに『饗宴』を読んで、その内容をもとにして曲を作って欲しいとリクエストしたという。


 プラトンは哲学の祖とされるソクラテスの弟子で、著作を残さなかったソクラテスに代わって彼の哲学を伝えたことでも知られている。『饗宴』もまた、プラトンが多く残した「対話篇」で、詩人アガトンが催した饗宴に師匠ソクラテスが招かれ、客人たちと交わした“愛”にまつわる対話が綴られている。


 会話に基づく「対話篇」といういささかややこしい形式が、果たしてプラトンの創作なのか、実際にあった会話が再現されているのかはわからない。なにせ紀元前の話であり、『饗宴』はソクラテスの死後に著されている。28人の男たちが集ったという宴で、ひとりひとりが“愛”にまつわる演説をしたというが、レコーダーもなければ速記者もいない時代に誰かが正確に記憶していたとは考えがたい。が、それもまた証明する手立てはない。なにせ紀元前の話なのだから。


 ただし、ソクラテスは「オリジン・オブ・ラブ」という曲にとっては重要人物ではない。重要なのは、ほかの登場人物と同様に“愛”にまつわる自説を披露する詩人アリストパネスだ。アリストパネスは、かつて人間が一人二組で、四本の手足を持っていた神話の時代について語る。太古の昔には、男同士、女同士、そしてその中間の男と女が対になった3つの種族がいて、神によって引き裂かれた。男同士が“太陽の子”、女同士は“大地(地球)の子”、そして男女の両性具有の種族が“月の子”と呼ばれた。この話がそのまま「オリジン・オブ・ラブ」の歌詞になっているのだ。


 とはいえ「オリジン・オブ・ラブ」は、ただ『饗宴』の内容をパクって歌にしたものでない。切実さや哀切さといったエモーショナルな側面が曲のオリジナリティの核になっていることはもちろんだが、単純に歌詞を文字の通り追いかけるだけでも『饗宴』から大きく飛躍しているのがわかる。ギリシャ神話から始まった歌の物語に、やがて北欧の雷神ソーやエジプトのオシリス神やインドの神様、ローマ神話のジュピターまでが乱入してくるのだ。そして地域や宗派を超えた神々の共同作業によって、人間たちは自分の片割れを失い地球の隅々へと散らばっていく。これは『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』が、世界のどこかで生きている“あなた”の物語であるという作品のコンセプトに繋がっているのである。




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