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『ヴァージン・スーサイズ』ソフィア・コッポラが、少女たちのエニグマを解き明かさなかった理由とは

(c)Photofest / Getty Images

『ヴァージン・スーサイズ』ソフィア・コッポラが、少女たちのエニグマを解き明かさなかった理由とは

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自分探しを経て辿り着いた、映画製作の道



 彼女は、小さい頃から父親が製作する映画のセットに出入りしていたけれど、映画監督になるなんて、ゆめゆめ考えていなかった。「何かクリエイティヴな仕事をしてみたい」とぼんやり願っていたが、映画という得体の知れないものからは離れようとしていた。よく考えれば当たり前のことだ。偉大な父親と比較される仕事に自分から首をつっこむなんて、どうかしている。ソフィアは、コッポラ一族が敷いたレールとは別の道で、自分のクリエイティビティーを発揮したいと考えたのだ。


 まず彼女はファッションに目を向けた。15歳のときインターンとしてシャネルで働きはじめ、有名ファッション・デザイナーのカール・ラガーフェルドに師事し、23歳で自分のブランド「MILK FED.」を立ち上げる。写真にも興味があったソフィアはフォトグラファーとしても活動し、恵まれた容姿を活かしてモデルや女優にもチャレンジした。要は「映画製作以外のクリエイティヴ」に片っ端から手を出した訳だ。だが、本当に自分が何をしたいのかは五里霧中。彼女はインタビューで、当時の気持ちをこんな風に述懐している。


 「20代のころは大学も出たばかりですし、自分自身がなにをやっていきたいのかというのがまだわからなくて、混乱していた時期なんです。誰もがそうだと思いますが、行き先のわからない気持ちを抱えていました」(「ユリイカ2018年3月号 特集=ソフィア・コッポラ」より)


『ロスト・イン・トランスレーション』予告


 『ロスト・イン・トランスレーション』(03)で、スカーレット・ヨハンソン演じる若妻が、ビル・マーレイに「作家を目指しても文章は最悪だし、写真を撮ってもロクなものができない」と吐露し、「どうしたらいいのかわからないの」と告白するシーンがあるが、これは当時のソフィア・コッポラの心情を真っ正直に引き写したものだろう。彼女は「自分探し」の旅の途中だったのだ。


 そんな彼女に転機が訪れる。友人であるソニック・ユースのサーストン・ムーアから、ジェフリー・ユージェニデスのベストセラー小説「ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹」を渡されたのだ。


 1970年代のアメリカ、ミシガン州郊外の町を舞台に、13歳から17歳までの美しい五人姉妹が自ら命を絶ってしまうという、謎に満ちた物語。雷に打たれたような衝撃を受けたソフィアは、何かに突き動かされるようにシナリオを書き上げる。実はこの時点で映画化は決定していて、すでに別の脚本家が執筆したシナリオがあった。その脚本に満足していなかった会社側は、ソフィア入魂のシナリオを採用。かくして、コッポラ一族の血に導かれるように、彼女は映画の世界に舞い降りたのである。



『ヴァージン・スーサイズ』(c)Photofest / Getty Images


 「映画というのは、自分が興味をもっていたいろんな分野を網羅できるので、『これだな』と心に決めることができたんです」(「ユリイカ2018年3月号 特集=ソフィア・コッポラ」より)


 思えば、『ゴッド・ファーザー』のマイケル・コルレオーネは、家族の中でただ一人裏社会には関与せず、大学を卒業して軍隊に入ったものの、結局マフィアのボスとなる道を選んだ。ソフィアもまた、映画とは距離をおいて自分なりのクリエイティヴを模索したものの、紆余曲折を経て映画監督となった。彼女は結果的に、コッポラ一族におけるマイケル・コルレオーネ的な人生をなぞることになったのだ。



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