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『パンズ・ラビリンス』スペイン内戦を背景に、ギレルモ・デル・トロが描く魅惑の物語

(c)Photofest / Getty Images

『パンズ・ラビリンス』スペイン内戦を背景に、ギレルモ・デル・トロが描く魅惑の物語

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第二次世界大戦の前哨戦



 物語は1944年、内戦後のスペインではじまる。1944年といえば、第二次世界大戦も佳境に差し掛かってきたころ。その6月には連合国によるノルマンディー上陸作戦が決行され、戦局は連合国の優勢に傾き、いよいよ枢軸国は敗色濃厚といったところだ。映画を観れば分かるが、この作品で示される背景的な情報は、あまり多くはない。その微々たる情報から紐解くならば、“スペイン内戦”という時代背景を知っておいて損はないはず。


 薄幸の少女オフェリア(イバナ・バケロ)は、仕立屋の父親を内戦で喪っており、彼女の母親は、生活の困窮を打開するためか、ファシスト政権のヴィダル大尉(セルジ・ロペス)と再婚。少女オフェリアは母とヴィダルと共に、山中の砦での暮らしを強いられる。


 本作は、少女オフェリアが牧羊神(=パン)から3つの試練を与えられ、次第に、裏庭の迷宮(=ラビリンス)へと誘われてゆく、ある意味では成長譚のようなプロットで描かれる。その主軸の物語とは別で展開するのが、ファシズムと社会主義の抗争である。前者はいわば幻想的に、後者は極めて現実的な視点から描き出されている。


『パンズ・ラビリンス』予告


 内戦の発端は1936年7月、フランシスコ・フランコ・バアモンデら率いる叛乱軍(ファシズム陣営)が、スペイン人民戦線政府(反ファシズム陣営)に対してクーデターを謀り、スペインは未曾有の内戦状態に突入した。フランコ政権は当時のファシズム国家であるドイツ、イタリアから軍事的な援助を受け、一方で、人民戦線政府もソ連、メキシコから武器や兵員を供与され、内戦は代理戦争の様相を呈していった。最終的に、物量に勝るフランコ政権側が戦況を有利に導き、1939年3月にはマドリードを含めたスペイン全土が叛乱軍によって制圧。内戦はフランコ政権の勝利に終わった。


 第二次世界大戦中のスペインは、先の内戦で疲弊していたこもあって、終戦まで、ほぼ中立的な立場を示していた。しかし、大戦中のスペイン国内では、この映画でも描かれているような、ファシスト軍とレジスタンスの小さな交戦が、各地で頻発していたようだ。内戦後のスペインでは、反ファシズム派に対する激しい弾圧が繰り返されるなど、社会主義排斥の動きが強まった。


 映画の舞台は1944年、つまりフランコ政権の独裁体制が顕在化してきたころを描いている。このような不安定な時勢の中で、生きづらさを感じたオフェリアは、奇妙な牧羊神に導かれるまま、幻想の世界に救済を求めたのだろう。


『デビルズ・バックボーン』予告


 なお、同監督の『デビルズ・バックボーン』もスペイン内戦を描いた作品であり、『パンズ・ラビリンス』とは類似点が多い。ある意味では姉妹編という位置付けだ。そのほか、スペイン内戦を題材とした映画には、アーネスト・ヘミングウェイ原作の『誰が為に鐘は鳴る』(43)、ビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』(73)などがある。『パンズ・ラビリンス』の時代背景をより深く知るには、これらの名作も助けになるはずだ。



文: Hayato Otsuki

1993年5月生まれ、北海道札幌市出身。ライター、編集者。2016年にライター業をスタートし、現在はコラム、映画評などを様々なメディアに寄稿。作り手のメッセージを俯瞰的に読み取ることで、その作品本来の意図を鋭く分析、解説する。執筆媒体は「THE RIVER」「IGN Japan」「リアルサウンド映画部」など。得意分野はアクション、ファンタジー。



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