主人公と監督、ふたりの重なり合いから見えてくるもの
『ハスラー』もまた、ハリウッドではなくニューヨークで撮られた作品だ。まさにロッセンにとって執念の一撃。こういった具合に彼の経歴を知った上で本作に臨むと、この映画の独特の雰囲気、登場人物の影の部分の多さ、善や正義といったものの定義について少しずつ理解できてくるはず。
とりわけ、主人公エディが胸に抱く「何が正しくて、何が間違っているのか」「栄光とは何か?挫折とは何か?」「挫折から何を学び、そこからどのように立ち上がっていけば良いのか?」といった悩みは切実だ。このビリヤードというアイテムやテーマを「映画」や「自由」と置き換えると、そのままロッセンが辿ってきた人生と呼応して見えてこないだろうか。
もともとの持病に加えて、赤狩りが与えた精神的なストレスは彼の体を蝕んだ。そして『ハスラー』撮影時にはもうあと何本かしか映画作りに携われないことを覚悟していたらしい。それから5年後、57歳の若さでこの世を去っている。
ロッセンはおそらく、自分の行った証言が正しかったのかどうか、死ぬまで葛藤し続けたはずだ。本作はある意味、ロッセン監督が「あるべき自分とは何なのか?」ともがく中で生まれた“心の叫び”だったのかもしれない。
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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