2020.04.20
ユニークなハイジャック制圧作戦
アテネ発、ワシントンD.C.行きの旅客機ボーイング747(懐かしのジャンボジェット)がテロリストにハイジャックされた。彼らの要求は、逮捕された指導者の釈放だったが、真の狙いは合衆国中枢の壊滅だった。積み込んだ強力な神経ガスもろともワシントンに突っ込もうというのだ。
この計画を阻止するためCIAの情報分析官グラント(カート・ラッセル)はトラヴィス中佐(スティーブン・セガール)率いる特殊部隊と共に最新の輸送機に乗り込み、飛行中の747に接近。高度1万メートルの空中でハイジャックされた旅客機に乗り移り、機内を制圧しようとする…。
本作が大変ユニークなのは、この設定にある。これまで作られてきたエンタメ系ハイジャック映画(実録系と区別するために、この言い方をさせて頂く)を振り返ってみると、『エアフォース・ワン』(97)、『コン・エアー』(97)、『パッセンジャー57』(92)、『フライトゲーム』(14)など全て、事件を解決する主人公が機内に乗り合わせていた、という『ダイ・ハード』(88)や『沈黙の戦艦』(92)的な「偶然、腕利きの刑事や元特殊部隊員が、事件現場に居合わせてしまいました。ちょっとご都合主義だけど許してね」という製作者の心の声が聞こえてきそうな設定が多い(と書きながら先述の作品がダメだと筆者は思っていません。むしろ好物です)。
『エグゼクティブ・デシジョン』予告
だがそれも仕方がない。ジェット旅客機は高度1万メートルを時速900キロで飛行する巨大な密室空間だ。ここに外から乗り込もうというのは設定上なかなか無理がある。しかし、それを臆面もなく堂々とやってのけたのが『エグゼクティブ・デシジョン』だ。どのような方法で乗り込むのかは未見の方のために詳述しない。SFすれすれの方法だが、映画的な説得力と面白味は十分で、前半の見所の一つとなっている。
そして、脚本がその力を発揮しはじめるのが、主人公が機内に乗り込んでからの展開だ。グラントと特殊部隊は、貨物室に潜みながら、突入のタイミングをはかる。しかし、神経ガスには爆弾が仕掛けられており、乗客の中に起爆係が潜んでいることが判明。起爆係を探し出さなければ、突入しても爆破されてしまう。さらにもたもたしてアメリカ領空に旅客機が入れば、たちまちアメリカ軍により撃ち落とされてしまう。
タイムリミットが迫る中、機内では爆弾の解除と起爆係の捜索が同時進行。しかし遂に旅客機を撃墜するためのF14が飛び立ってしまう…。密室空間、しかも壁一枚向こうにテロリストがいる状況で息を殺して行動する主人公たちを大小様々なピンチが襲う。辛くもピンチを脱するが、すぐに次の難題が降りかかる。緊張感を途切れさせない展開で観客の心を離さない。
『エグゼクティブ・デシジョン』(c)1996 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
本作の脚本はジム・トーマスとジョン・トーマス。二人は兄弟で『プレデター』(87)、『プレデター2』(90)、 『ミッション・トゥ・マーズ』(00)、『エネミー・ライン』(01)などを手掛け、極限状況追い詰められた人間が、知恵を振り絞ってピンチを脱するストーリーを得意としている。兄弟姉妹で共同監督を務める例はままあるが、兄弟で脚本執筆に専任するというスタイルを筆者は寡聞にして知らない。
彼らが、どのように脚本を練り上げていったのかは分からないが、想像するに、2人はストーリーを組み立てるにあたり、「主人公をピンチに追い込む」担当、「それを何とか切り抜ける」担当に役割を二分していたのではないだろうか。なぜそう思うのか。それは黒澤明がアクションスリラーを効果的に執筆するために用いた、骨法とも言えるものだからだ。