2020.04.20
4人の名脚本家の頭脳戦から生まれた『隠し砦の三悪人』
黒澤明監督の『隠し砦の三悪人』(58)はストーリーラインを『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(77)に引用されたことでも有名なアクション映画のお手本だ。黒澤はこの脚本を小国英雄、菊島隆三、橋本忍という一流の脚本家と共に4人で執筆した。黒澤は独りよがりにならない客観性を担保するため、脚本は常に共同執筆したと言われるが、『隠し砦~』の場合はさらに執筆法がユニークだった。
軍用金を運ぶ主人公(三船敏郎)たちは敵に追われながら、いくつものピンチを切り抜けていく。そのシチュエーションを説得力あるものにするため、黒澤は脚本家を2つのチームに分け、片方に主人公たちを襲うピンチを考えさせ、もう片方にそれをどう切り抜けるかのアイデアを考えさせた。そして、最もベテランの小国英雄がピンチを切り抜ける方法に無理がないか、さらに面白いかどうかを判定したという。
ストーリーを構築する際に最も危険なのは、想定した展開にするため強引な要素を入れてしまう「ご都合主義」に陥ることだ。これを警戒した黒澤は誰が見ても納得でき、かつエキサイティングな展開にするため、一流の脚本家たちに頭脳戦を求めたのだ。
『エグゼクティブ・デシジョン』(c)1996 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
『エグゼクティブ・デシジョン』の完成度は、これと同様、脚本家の頭脳戦のたまものではないだろうか。ジムとジョンの兄弟は、ピンチとそれを乗り越えるアイデアを日々戦わせながら脚本を執筆したのではないか…、筆者にはそう思えて仕方がない(本人たちにいつか確認してみたい)のである。その結果がロッテントマトでの「クラシックなアクションスリラーの型をたっぷりと取り入れており~」という評価にもつながったのではないだろうか。
『エグゼクティブ・デシジョン』には派手な爆発や銃撃戦はほとんどない。撮り方もオーソドックスで、演出は控えめな印象さえある(同時期公開『ザ・ロック』のマイケル・ベイ演出との落差!)それでも、「面白いアクション映画を見た」という充実感を存分に味わうことができる。その要因は、映画の設計図たる脚本の完成度に他ならないのである。
最後に付け加えておくと、当時『沈黙の戦艦』(92)などに出演、新世代のアクションスターとして上り調子だったスティーブン・セガールは本作の演技で、ラジー賞の最低助演男優賞にノミネートされてしまった。映画を見た人なら、その理由が分かるだろうが、筆者はこれを作品に対するシャレの効いた肯定的評価だととらえている。未見の方は是非確認して頂きたい。けっこうビックリするから(笑)。
取材・文: 稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)。
『エグゼクティブ・デシジョン』
ブルーレイ ¥2,381+税/DVD ¥1,429 +税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
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