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『ナチュラル』“ワンダーボーイ”レッドフォードが創り上げた、オデュッセイア的神話

(c) 1984 TRISTAR PICTURES.ALL RIGHTS RESERVED.

『ナチュラル』“ワンダーボーイ”レッドフォードが創り上げた、オデュッセイア的神話

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“光に包まれた者”と“闇に閉ざされた者”の物語



 神話としての『ナチュラル』を映像的に補完しているのが、極端と言っていいくらいに強調された光と影の演出。この映画は、“光に包まれた者”(神に祝福された者)=“主人公もしくはそれに近しい者”、“闇に閉ざされた者”(神に叛逆する者)=“悪役”というわかりやすい構図になっている。


 例えば、オープニング。我々観客は、上から降り注ぐ太陽を浴びながらキャッチボールに興じる、柔和な笑顔のロバート・レッドフォードを目撃する。これぞヒーロー・ショット!何の説明もなしに、我々はロイが光の使者であることを直感的に確信してしまう。


 その一方、彼の人生を狂わせる謎の美女ハリエット(バーバラ・ハーシー)は影の使者。彼女は黒いベールに身を包み、光が差し込まない列車の暗い一室で、彼に銃弾を浴びせる。ニューヨーク・ナイツのオーナーである判事もまた、極端に光を嫌うという特異なキャラクターとして登場。彼は真っ暗な執務室で、ロイを悪の道へと誘惑する。まるでアナキン・スカイウォーカーを暗黒面へと導くパルパティーン皇帝のように。


『ナチュラル』予告


 そんなロイを救わんと登場するのが、幼馴染アイリス。彼女は初めて野球場に訪れたとき、彼を励まそうとすっと立ち上がるのだが、後ろからの陽光に照らされて、まるでアイリスにだけ後光が差しているかのように見える。それは天使の光と言っていいかもしれない。ロイは16年ぶりに守護天使=アイリスに再会することで打撃が復活し、みごとスランプから脱出する。


 そして、映画のクライマックス。普段はのどかなデーゲームで白球を追いかけていたが、最終試合の舞台はナイトゲーム。闇に覆われたフィールドと、強烈な光を放つナイター照明が交錯する世界は、まるで天国と地獄の間(はざま)にある煉獄のようだ。


 ロイはユニフォームを血に染めながら、バックスクリーンの大時計に白球をかっ飛ばす。破壊されたナイター照明は大きな花火となり、歓喜にむせぶナイツの選手たちを淡い光で優しく包み込む…。『ナチュラル』は徹頭徹尾、“光”と“影”の演出にこだわっているのだ。


 アメリカには、1839年にニューヨークのクーパーズタウンで、アブナー・ダブルデイ将軍によって野球が考案されたという逸話が残っている。この映画の舞台は1939年。野球が生まれてからちょうど100年目の、記念すべき年だ。アメリカ人にとっての神話“野球”を描くにあたって、『オデュッセイア』的神話構造と、それを補完する“光”と“影”の演出が採用されたのは、必然的帰結だったのである。



文:竹島ルイ

ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。



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『ナチュラル』

4K ULTRA HD発売中 4,743円+税

発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

(c) 1984 TRISTAR PICTURES.ALL RIGHTS RESERVED.

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