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『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』スピルバーグが“父親”に託した決意とは?
2020.06.16
インディ・ジョーンズの三人の父親
ショーン・コネリー演じるヘンリー・ジョーンズ教授は、インディと同じく考古学教授で、聖杯研究の権威として知られている人物。そして研究に没頭するあまり、妻や息子を顧みなかった父親、として描かれている。阿部和重の言葉を再び引用するならば、「家庭を捨てて、母子をおいて『外』に出ていく父親」。つまり、『ジョーズ』のブロディや『未知との遭遇』のニアリーに近いキャラクターなのだ。
その一方で、インディには実の父親のように慕っている人物がいる。同じ大学の副学部長で、向こう見ずで無鉄砲なインディを影から支えてきたマーカス(デンホルム・エリオット)だ。『レイダース』の時にはもっと知的で頼れる男として描かれていたはずだが、この作品では本当の父親が登場するため、自分の博物館で迷うほどの方向音痴で、間が抜けた天然おじさんにキャラ変させられてしまう。『最後の聖戦』は、仮の父親だったマーカスから親離れして、本当の父親のヘンリーと父子関係を築く物語とも言えるだろう。
しかし、この作品にはもう一人の父親が登場する。ウォルター・ドノバンだ。アメリカの大富豪でありナチス党員でもあった彼は、誰よりも聖杯探索に情熱を傾けていた。博物館に多大な寄付をしてインディを金銭的に援助し、「用心を。誰も信用しないことだ」とアドバイスを送る。
『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』TM & (C) 1989, 2016 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved. Used Under Authorization.
実はインディとドノバンが談笑中に、ドノバンの妻が「パーティのお客様はほったらかし?」と話しかけるシーンで、うっすらとピアノの旋律が聞こえるのだが、それが『スターウォーズ』のインペリアルマーチ…つまりダースベイダーのテーマなのだ!
聖杯のためなら他人の命を犠牲にしても構わないという彼の歪んだ信条は、考古学を狂信しているインディにとっての黒い父親であり、そうなっていたかもしれないもう一人の自分。まさしく、ルーク・スカイウォーカーをダークサイドに導かんとするダースベイダー的存在。彼がインディではなくヘンリーを撃ったのは、「インディが選ぶべき父親はどちらなのか」という意味で、必然だったのである。
この作品で最も感動的なのは、崖から落ちそうになるインディの手を、ヘンリーがつかんで引き上げようとするシーンだろう。すっかり聖杯に心を奪われてしまったインディに対して、父親は「ジュニア」ではなく、「インディアナ」と語りかける。偉大なる父親の名前を冠したヘンリー・ジョーンズ・ジュニアではなく、独立した一人の男としての成長を認め、インディアナと呼びかけるのである。我に返ったインディは父の手をとり、父子の絆を取り戻し、危機から脱出する。
だが、このシーンにはもう一つの意味があるような気がしてならない。それは、偉大なる007がインディ・ジョーンズに手を差し伸べ、「映画のヒーロー」の座を移譲した瞬間ではなかったか。憧れだった『007』シリーズと決別し、これからは自分が新しい映画界を切り開いていくのだという、スピルバーグの映画作家としての決意表明ではなかっただろうか。
『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』は、「父親が『外』から帰ってきて家庭の元に戻る」物語であり、「スピルバーグがこれからのハリウッドの父性的役割を背負う」という高らかなマニフェストでもあるのだ。
文:竹島ルイ
ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。
『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』
Blu-ray: 1,886 円+税/DVD: 1,429 円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
TM & (C) 1989, 2016 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved. Used Under Authorization.
※2020年6月の情報です。
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