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『水曜日が消えた』中村倫也×新鋭監督が醸造した、「優しい新感覚」

(c)2020『水曜日が消えた』製作委員会

『水曜日が消えた』中村倫也×新鋭監督が醸造した、「優しい新感覚」

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斬新な設定が引き立たせる、「人の情」



 斬新なアイデア、洗練された映像表現、安定した演技――。『水曜日が消えた』は非常にバランスの良い映画だが、アイデアに埋没することなく、そこにちゃんと「人の情」が盛り込まれているのが意義深い。


 本を読むことが大好きなのに、最寄りの図書館は休館日でつらい思いをしている“火曜日”。彼は、水曜日が消えたことによって2日分の人生を送れるようになり有頂天になるが、その喜びは長くは続かない。自分の中で、水曜日に対する心配が生まれてくるからだ。


 芥川龍之介の傑作小説「芋粥」では、「個人のひそかな楽しみを他者から急に与えられると冷める」という人間の心理を見事にとらえているが、本作でも、「幸福とは何ぞや」という目線が、キーとなっている。「個人」と「仲間」の幸福について、しっとりとした温かな目線が内包されているのだ。すなわち、「自分だけが幸せでいいのか?」と“火曜日”が懊悩すること自体が、事故によって望まぬ体になってしまった、“不幸”に対する反逆となっていくということ。



『水曜日が消えた』(c)2020『水曜日が消えた』製作委員会


 そういった意味で、『水曜日が消えた』は「成長物語」であり、「自分探し」のドラマでもある。ゆえに、作品を観終わった後に漂うのは、いわゆるテク的な魅せ方の上手さというよりも、エモーショナルな余韻ではないだろうか。主人公を取り巻く、幼なじみの女性(石橋菜津美)や医師(きたろう)の“思惑”もまた、観客が受け取り、想起する感情を豊かにしていく。サスペンスに徹さないどこかパーソナルな雰囲気と“閉じた”スケール感もまた、本作を味わい深いものにしている。


 「曜日ごとに異なる7つの人格」というアイデアから出発しつつも、最終的に「人を描く」に帰結する『水曜日が消えた』。新味を詰め込んだニュージェネレーションの映画に見せかけて、普遍的な“人情”に落とし込んでいくさまは、実に映画愛にあふれており、心憎い。


 新しいのに、優しい――。監督のセンスや役者の演技力に依存することのない『水曜日が消えた』。その奥ゆかしさもまた、本作が特別な輝きを放つゆえんだろう。



文: SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」「シネマカフェ」「BRUTUS」「DVD&動画配信でーた」等に寄稿。Twitter「syocinema



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『水曜日が消えた』

2020年6月19日公開

配給:日活

(c)2020『水曜日が消えた』製作委員会

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