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3行のプロットから生まれたアイデア
曜日ごとに変わる、7人の僕。
ある朝、“水曜日”が消えた。拡張していく自分。
それは果たして、待ち望んでいた幸せなのか――。
『水曜日が消えた』は、実に「新しい」映画だ。人気絶頂の演技派・中村倫也が7役を演じるというキャッチーな設定はもとより、トリッキーな物語設計、多彩なスローモーション、SFチックな演出を織り交ぜた映像表現など、作品のいたるところに、日本的なルーツを感じさせない。そもそも、本作を手掛けた俊英・吉野耕平のクレジットは、監督・脚本・VFX。国内では、あまり見たことがない並びだ。
本作は、どのようにして生まれたのか。吉野監督の才能をいち早く見出した谷戸豊プロデューサーは、マスコミ用のプレス資料内でこう語っている。「定期的に企画打ち合わせを行うようになったある日、『ゲット・アウト』(17)を観て、ワンアイデアの素晴らしさについて監督と盛り上がる。『トゥルーマン・ショー』(98)『her/世界でひとつの彼女』(13)『アバウト・タイム 愛おしい時間について』(13)『ビューティー・インサイド』(15)『ドント・ブリーズ』(16)……アイデアはどんどん膨らんでいった」と。
この作品の並びをみれば、本作の骨格が把握できるのではないか。いずれも、現実の中にフィクショナルな発想を注入し、映画ならではの面白さを追求した作品たちだ。あらすじを聞いただけで――つまり、作品の根幹となるワンアイデアを聞いただけで、興味がそそられるタイプの映画といえる。その打ち合わせの翌週、吉野監督から送られてきた3行のプロットで、本作は動き出したそうだ。
タイトル『水曜日が消えた』
1人の人間の内側で、曜日ごとに入れ替わって暮らしている7つの人格。
そのうちの最も地味でつまらない、通称“火曜日”の視点を通して描かれていく世界の物語。
しかし、ある日“水曜日”が消えることから物語が動き出します。
驚くべきことに、この時点でタイトルを含めた映画の概要が完璧に出来上がっている。「なぜ“水曜日”は消えたのか?」は作品を観進めていく中で判明していく“謎”であり、このあたりを余白としておき、受け取り手を引き付けるつくりも上手い。吉野監督は「映画の基本は、ある状況を解決すること」とも語っており、斬新であり明快だ。
吉野監督は、1979生まれ。CMプランナーやコピーライターとしても活躍し、映画作家としては、2000年にPFFアワードで審査員特別賞を受賞。数々のミュージックビデオや、『君の名は。』(16)にCGクリエイターとして参加。実写・アニメーション問わずに活躍しており、『水曜日が消えた』が初監督作となる。
このように、新しいタイプのクリエイターが映画デビューした結果、前述したような「日本臭さがない」新しいタイプの作品が生まれたのだろう。