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『フライト』ロバート・ゼメキスがサスペンスに活用した、高度な記号表現とは ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『フライト』ロバート・ゼメキスがサスペンスに活用した、高度な記号表現とは ※注!ネタバレ含みます。

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特定されない神様



 映画のラストとは「いろいろあったけど、最終的にこうなりました」という結論である。


 『フライト』のラストシーンは、刑務所に収監されたウィップが息子の面会を受ける場面だ。大学の願書にそえる作文で「今まで会った中で最高の人物」をテーマにするために面会に来た。そう言う息子に万感の面持ちのウィップ。つまり、刑務所に入っているウィップが「最高の人物」だとして映画が終わるのだ。


 彼は多くの人を救ったヒーローだったが、同時にアル中でコカイン常用者でもあった。聴問会で恋人が飲酒したと言えば「多くの人命を神業テクニックで救ったパイロット」として余生を過ごせたのに、その栄光を捨ててまで自らの罪を告白した。



(C) 2012 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.TM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures.All Rights Reserved.


 ウィップの息子は父親に向かって「あなたは何者なのですか?」と聞く。ウィップは心底気分が良さそうに「それは良い質問だ。」と息子に笑いかける。映画では描かれないが、おそらくウィップの答えはこうだろう。


 「私はウィップ・ウィトカー。元飛行機パイロットでアルコール依存症です。」


 アルコール依存症の自助グループ「AA」には回復プログラム「12のステップ」がある。「ステップ1」では、自分がアルコールに対し無力であると認める。「ステップ2」では「自分を超えた大いなる力」が自分の心を健康にすると信じる。「ステップ3」は自分の生き方を「自分なりに理解した神」に委ねる。飛んで「ステップ5」「ステップ6」は、自分自身や他の人、神様に対し、自分の過ちを認める。その過ちを神様に正してもらう準備をする。といったように、基本的に「神頼み」なものである。


 ただし上記した通り、イチイチ「自分を超えた大いなる力」「自分なりに理解した神」「より高い力」など、特定の神様に捉えられる表現は避けられている。「AA」はどの宗教・宗派でも分け隔てなく助けるので「すがるのは自分の宗派の神様で良いですよ。自分で認めるなら他の神様でも良いですよ。」というワケだ。


 これらを踏まえると映画『フライト』は「AA」の「12のステップ」から逸脱しないように設計されていることが解る。なので「神様」の存在は仄めかされるが、特にドコの神様であるかは漠然とし、記号的なものに留められている。このことが作品に奇妙な魅力をもたらしている。


 『フライト』では「酒」「ドラッグ」「嘘をつくこと」が「悪いもの」の記号として登場し、その理屈は説明されない。ただ、これらは多くの宗教・宗派、道徳でも「悪いもの」とされている。同じ様に「正直であること」は根拠なく「良いもの」として記号化されている。加えて「神様」は漠然とした表現に留められている。


 結果「悪い」「良い」の「根拠」はすっ飛ばされ、ゼメキスの卓越したスリルとサスペンス演出をもって描かれるのだ。なので「なんでそうなったらマズいのか感覚的には解るけど根拠は無い。でも、そうなったらマズい!」という奇妙な感覚を、心地よい緊張の中で持たされる。


 『フライト』はアバンギャルドになりがちな高度な記号表現がありつつも、大衆性を持たせ、興行的にも成功を納めるという、見事なバランスを持った作品になっているのだ。



文: 侍功夫

本業デザイナー、兼業映画ライター。日本でのインド映画高揚に尽力中。



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作品情報を見る




『フライト』

Blu-ray: 2,381 円+税/DVD: 1,429 円+税

発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント

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※ 2020年6月の情報です。


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