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『フライト』ロバート・ゼメキスがサスペンスに活用した、高度な記号表現とは ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『フライト』ロバート・ゼメキスがサスペンスに活用した、高度な記号表現とは ※注!ネタバレ含みます。

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神の奇跡…… じゃない!?



 キリスト教には様々な宗派が存在する。アメリカでのキリスト教宗派だと、まずローマ・カトリックとプロテスタント。プロテスタントの中でリベラル派と福音派というのが大雑把な分け方になるだろう。


 『フライト』での飛行機の墜落現場には福音派の流れを汲んだペンテコステ派の教会があった。ただ、劇中でペンテコステ派の信者たちは「人だかり」くらいにしか描かれていない。彼らを映す時には、いちいちカメラは遠ざかり、白い布を纏ってお祈りをする姿を小さく見せることで、虫か小動物のように印象付けられている。彼らが墜落した飛行機から乗客を救う手伝いをしている場面でさえ顔は写さないままだ。


 また、副パイロットはステレオタイプなごりごりの福音派キリスト教右派として描かれる。表情に乏しく、事故を「神の御心」と呼び、祈りを捧げる彼ら夫婦の様子は不気味な印象を与えている。


 彼ら以外に「神の御心」を口にするのはガンに罹り、抗ガン治療の影響で痩せ細り、頭髪を失った男が自らの病を指す場面だ。「神の御心」はどれも良い意味は持たされていない。



『フライト』(C) 2012 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.TM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures.All Rights Reserved.


 ウィップの弁護士ラング(ドン・チードル)は事故のことを「不可抗力」だと繰り返す。英語で「不可抗力」は「act of god」と表現する。直訳で「神の行い」だ。


 そして、ゼメキスは『コンタクト』(97)の監督でもある。神の存在を否定したことでパイロットから外され、しかし結果として宇宙人と“コンタクト”する実証主義の主人公を描いていた。これらのことからゼメキスは宗教的な教訓譚にするつもりは無いように思える。


 となると、本作は宗教を信仰することで生まれる崇高な精神性を描こうとしているワケでは無く、必然的に悪魔の誘惑を描いているワケでも無くなる。悪魔とは「アンチクライスト」とも呼ばれている通り、神様(クライスト)と対で存在するものだからだ。


 しかし『フライト』には宗教的な、有無を言わさぬ“力”のようなものが描かれている。その正体は何なんだろうか?



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