依存症の恐ろしさ…… じゃない!?
本作ではウィップがアルコール中毒でコカイン常用者である事が重要な要素になっている。ところが、ウィップは大酒をくらいコカインをキメながら、墜落必須の飛行機を奇跡的な機転と卓越したテクニックによって救ってみせたし、車を運転しながら巨大ペットボトルからウォッカをぐびぐびラッパ呑みしているが事故は起こさない。酒代やドラッグを買う金に困っている様子もない。
つまり、アルコール中毒やドラッグ服用による恐怖や弊害は描かれていない。せいぜいが酔って崩れ落ちるように寝てしまう程度のものだ。
最後の公聴会でも朝まで呑んでグデングデンに酔っぱらっていてもドラッグ・ディーラーの友人を呼んでコカイン吸ってシャッキリして出向いて行く。コカインに関しては酩酊状態をすっきりさせる「ウコンの力」程度の描写になっている。
『フライト』(C) 2012 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.TM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures.All Rights Reserved.
ドラッグやアルコールをめぐる映画では「悪いところ」を描くのが常だ。たとえば『レクイエム・フォー・ドリーム』(00)ではドラッグのために親のテレビを売っぱらったり、注射を打っていた側の腕が腐って取れてしまう様子が恐ろしく見えるよう演出されている。
アルコールやドラッグへの依存がもたらす悪い部分を観せることで「そうなったらイヤだなぁ」と感情を誘導するのである。ところが『フライト』ではアルコールを飲むことがどう悪いのかは、ほとんど描かれていない。
これらを鑑みれば『フライト』が「アルコール/ドラッグの危険性」といった解りやすい教訓譚にはなっていないことが解る。
では『フライト』のテーマは何なのか?