1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. フライト
  4. 『フライト』ロバート・ゼメキスがサスペンスに活用した、高度な記号表現とは ※注!ネタバレ含みます。
『フライト』ロバート・ゼメキスがサスペンスに活用した、高度な記号表現とは ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『フライト』ロバート・ゼメキスがサスペンスに活用した、高度な記号表現とは ※注!ネタバレ含みます。

PAGES


悪魔の誘惑…… じゃない!?



 ローリング・ストーンズの名曲「悪魔を憐れむ歌」をバックに登場するのはドラッグ・ディーラーでウィップの友人ハーリン(ジョン・グッドマン)だ。


 “自己紹介をさせてください。私は資産のある趣味人といったところでございます。長いこと様々な場所へ赴き、多くの魂を奪い、捨ててやったものです。”


 「悪魔を憐れむ歌」は、キリストの処刑に始まり、ロシア革命や第二次世界大戦などの現場に「立ち会ったよ」と嘯く悪魔の語りとして作詞されている。これはハーリンが「悪魔的」な存在だと表した選曲だ。


 解りやすいアクション・ホラー映画では、悪魔は異形の怪物として登場し、大量虐殺を目論み天変地異を引き起こしたりするものだが、聖書を始め、聖典や神話に登場する「悪魔」は陰湿で性格の悪いトリックスターのような存在である。



『フライト』(C) 2012 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.TM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures.All Rights Reserved.


 映画で言えばスティーブン・キング原作の『ニードフル・シングス』(93)が良い例になるだろう。メイン州の田舎町キャッスルロックに開店した古物屋「ニードフル・シングス(必需品)」。店主は訪れた人々に、一番欲しがっている物を無償でプレゼントする代償として、いたずらをするように仄めかす。いたずらをされた方は、その犯人をあて推量し、関係の無い相手と諍いを起こす。諍いは対立を生み、小さな町を分断し、人々は暴徒となってしまう。キリスト教において「隣人」は愛すべきものなので、罪を犯させ、その魂を奪おうというのが悪魔の目的なのだ。


 『フライト』でのハーリンは豪放磊落で無神経だが、ウィップにとっては気のおけない友人として魅力的な存在だ。そして、公聴会を前にべろべろに酔っぱらってしまったウィップにコカインをデリバリーし、窮地を救う。一見、ウィップを助けているように思えるが「罪」を犯させようともしている。


 もちろん法律上の「偽証罪」もだが、ハーリンが犯させようとしているのは旧約聖書で唯一神がモーセに託した、いわゆる「モーセの十戒」にある「隣人に関して偽証してはならない。」の方だ。では『フライト』は悪魔や悪魔的な存在の誘惑に打ち勝つ信仰心の試練を描いているだろうか?



PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. フライト
  4. 『フライト』ロバート・ゼメキスがサスペンスに活用した、高度な記号表現とは ※注!ネタバレ含みます。