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『KIDS』伝説の写真家ラリー・クラークが切り取った、アメリカン・ユースカルチャーの光と影
伝説の写真家、ラリー・クラーク
1943年、オクラホマ州のタルサという街で生まれ育ったラリー・クラークは、最も多感な時期に兵役に行き、帰国してからは失った期間を取り戻すかのように、ドラッグに溺れる日々を送った。そのような状況の中、性行為、薬物、暴力に溺れた友人たちのありのままの姿を、写真に撮り続けた。63年から71年にかけてのことである。
71年、最初の写真集「タルサ」を出版。初版500部に満たない部数にもかかわらず、彼が捉えたティーンのむき出しの姿は世に衝撃を与え、ラリー・クラークの名前が知れ渡るきっかけとなった。その後しばらく息を潜め、83年に発表した2作目「ティーンエイジ・ラスト」で再び表舞台に現れ、若者の欲望に向き合ったインパクトある内容で、評価を決定的にした。
あまりに直接的な描写は賛否両論あったが、失った青春時代を取り戻そうと、被写体と深く関わり、無心にシャッターを切り続けるその純粋な衝動は、注目を集めた。さらに寡作っぷりも拍車をかけ、90年代には、もはや伝説の写真家という評価を与えられていた。
『KIDS』(C) 2018 Filmverlag Fernsehjuwelen. All rights reserved.
そんな折発表されたのが、本作『KIDS』であった。故郷タルサから離れ、ニューヨークのスケーターを主役に、ティーンのありのままの姿を描いた衝撃作。話題にならないわけがない。
折しも時は90年代前半、HIV感染が世界の脅威になっていた頃。90年にキースへリング、91年にフレデュ・マーキュリーが死去、93年にアクト・アゲインスト・エイズ(AAA)コンサート開催、映画『フィラデルフィア』(93)でHIV患者役を演じたトム・ハンクスがアカデミー賞主演男優賞受賞と、世界中の人々の関心がHIVに向いていた時期でもあった。
また、映画の持つ社会性が話題となり、直接的な描写のインパクトに押し流されず、健全な批評対象になったことも大きかった。