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“Death Trilogy 死の三部作”
本作『エレファント』(03)は第56回カンヌ映画祭で最高賞のパルムドールと監督賞の同時受賞を成し遂げたが、多くの点で異彩を放っている。アメリカで実際に起きた銃乱射事件をモチーフにしたセミ・フィクションであること、意味深なタイトル、81分という短い時間、正方形に近い画角、異様な長回し、素人俳優を起用、ドラマ性やカタルシスの欠如など、およそ映画的と言われる演出要素をことごとく排除した作りをしている。
挑戦的なやり方を徹底し、監督賞を受賞したのはガス・ヴァン・サント。『ドラッグストア・カウボーイ』(89)や『マイ・プライベート・アイダホ』(91)などアメリカのポートランドを中心にユニークな映画を作り続けてきたが、その後『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)などのハリウッド作品を連続で手がけ、『GERRY ジェリー』(02)で、実験的かつ小規模な現場にふたたび戻るという、紆余曲折ありながらもコンスタントに制作ができている稀有な存在だ。
彼の作品は、常識に馴染めないアウトサイダー達の悲喜劇をユーモアと暖かい目線で描くことが多く、広い国のおおらかさとアメリカンユースカルチャーを感じさせる情感溢れる作風に、根強いファンが多い。
しかし、監督のフィルモグラフィーの中でも本作は特殊なポジションにある。本作を挟んで前後2作、『GERRY ジェリー』と『ラストデイズ』(05)を合わせた3本の作品は、“Death Trilogy 死の三部作”と発表され、内容こそ違うものの、テーマや手法を共通化させている。『GERRYジェリー』はニューメキシコ州の砂漠で若い男性二人が迷子になり一人だけ生還した事件、『エレファント』はコロンバイン高校銃乱射事件、『ラスト・デイズ』は故カート・コバーンの最後と、いずれもアメリカで起きた実話を元にした、日常の延長で起きる若者の死についての物語である。