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『エレファント』ガス・ヴァン・サントとハリス・サヴィデスが挑んだ、リアリズムと究極のミニマリズム。世界が認めた“Death Trilogy”とは。

(c)Photofest / Getty Images

『エレファント』ガス・ヴァン・サントとハリス・サヴィデスが挑んだ、リアリズムと究極のミニマリズム。世界が認めた“Death Trilogy”とは。

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コロンバイン高校銃乱射事件



 今から約20年前の1999年4月20日午前11時過ぎ、コロラド州にあるコロンバイン高校で、同行の生徒2名が周到な計画に基づき、校内で乱射を開始。45分間に12人の学生と1人の教師を殺害し、最終的に本人たちも銃で自殺。負傷者も24名にのぼる大惨事を引き起こした。また、用意していた全ての爆弾が予定通り昼のカフェテリアで爆発していれば、数百人規模の犠牲者が出ていたという。


 未成年者が銃を所持することは違法ではあったが、簡単に入手できるルートがあったことは事実であり、その後も銃規制法の整備が全く整わないことが、マイケル・ムーア監督が名ドキュメンタリー『ボーリング・フォー・コロンバイン』(02)をつくるきっかけとなった。(『エレファント』がパルムドールを獲得した翌年のパルムドールがマイケル・ムーアの『華氏911』(04)であることに縁を感じる)


『エレファント』予告


 『エレファント』では数名の生徒たちに寄り添い、犯行当日、校内でかすかに交錯していくさまを淡々と捉えていく。アングルの美しさを強調するワイドサイズは封印され、4:3ほどの特徴のない画面サイズで展開されていく。殺風景な中にも既視感と幽玄さが漂うサヴィデスのカメラワークは素晴らしい。


 しかし、教室の移動、友人との他愛もない会話、食事、運動など、彼らにとってはいつもと変わらない日常が映し出されるたびに、観客は身を引き裂かれるような思いを抱いていく。彼らのうち誰かは、きっとこのあと、命を落とすのだ。なんでもない風景が、突然の暴力によって破壊されていくことを、観ている自分は知っている。それはいつ来てしまうのだろうという、やるせない緊張感が立ち上がってくる。


 

『エレファント』(c)Photofest / Getty Images


 プロの俳優ではなく素人を多く使い、アドリブでカメラ前に立つ彼らは普通のティーンにしか感じられない。犯人の二人だけ、犯行前の姿を見ることができるが、いずれもことさらに誇張された演出は無い。いじめられていた様子は若干うかがえるが、家庭環境への言及はなく、犯行の直接的な理由は一切明示されないまま、半ば強引に映画は終わりを迎える。


 劇場での初見時、筆者の正直な印象としては、今までに慣れ切った映画的カタルシスの無さに少々戸惑い、物足りなさも感じた。何かしらの答えを欲して映画をみた観客にとっては、見ることが無駄だったと思われても仕方ないほど、回答が用意されていない。しかし、いろいろ考えを巡らせてみても、他のアプローチは浮かばないのだ。


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