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『エレファント』ガス・ヴァン・サントとハリス・サヴィデスが挑んだ、リアリズムと究極のミニマリズム。世界が認めた“Death Trilogy”とは。

(c)Photofest / Getty Images

『エレファント』ガス・ヴァン・サントとハリス・サヴィデスが挑んだ、リアリズムと究極のミニマリズム。世界が認めた“Death Trilogy”とは。

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ワンシーン・ワンカット・長回し



 2000年代に入った頃、監督はハリウッドのやり方から逃れ、本来やりたかったクリエイティブを追求する機会をうかがっていたようだ。具体的に言うと、タルコフスキーの一連の作品やタル・ベーラの『サタンタンゴ』(94)などで使われた、ワンシーン・ワンカット・長回しという手法に対しての抗いがたい魅力だった。状況説明のための映画的文法を廃し、俳優に自由を与えカメラはその様子をじっと撮り続けることで、映画的な虚構・嘘からできるだけ離れて、リアリティを創ろうとする挑戦である。


 監督のインタビューによると、時期は明言していないが、コロンバイン高校銃乱射事件を映画化したいという話を映画会社の重役にしたところ、とある一本の作品を紹介され、このようなやり方であれば検討する、という返事があった。それが1989年英BBCが制作した約40分のテレビ用短編映画“Elephant”であった。ちなみに、英語では「部屋の中の象」といって、周知の事実でありながら誰もそれに触れたがらないという、ものの例えがあるらしい。 


 この“Elephant”は、北アイルランド紛争を背景にしており、淡々と18件の殺人が描かれるのだが、説明は一切無く、とある場所で名もなき男が名もなき男を銃殺する、また別の場所で名もなき男が名もなき男をナイフで殺す、また次の場所では・・・というように間髪入れずに18シーンが続くだけである。ほぼ、殺す男の後ろ姿をカメラが追い続けるだけであるが、長回しでも緊張感が途切れず、最後まで一気に見てしまう妙な魅力のある異色作だ。


 カット数を少なくしつつも完成度を高めるやり方に、監督の迷いはなくなり、3部作はこのスタイルでいくと決め、コロンバイン高校についての映画は、タイトルまで同じ『エレファント』にしてしまった。また、その時点でBBCの“Elephant”の監督は死去していたため、同作のプロデューサーであったダニー・ボイルに許諾をもらったという。


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