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『エレファント』ガス・ヴァン・サントとハリス・サヴィデスが挑んだ、リアリズムと究極のミニマリズム。世界が認めた“Death Trilogy”とは。
ハリス・サヴィデスの貢献
かくして、特殊なプロジェクトは動き出すのだが、きっとこのスタッフがいなかったらプロジェクトは全く違った結果になっていただろうと、確信を持って言えるメンバーがいる。撮影監督のハリス・サヴィデスだ。2012年、脳腫瘍によって55歳という年齢で旅立つまで、目覚ましい作品を残してきた、アメリカ撮影界の巨人である。
ファッションカメラマンとしてキャリアをスタートさせ、その後マーク・ロマネクやデヴィッド・フィンチャーのミュージックビデオで、映像カメラマンとして泣く子も黙るキャリアを築き、映画ではフィンチャー、リドリー・スコット、ジョナサン・グレイザー、ソフィア・コッポラ、ノア・バームバック、ウディ・アレンなど、錚々たる監督たちと組んできた。
本人は、アントニオーニや小津の映画が好きだと公言しており、そこにある風景に対して高い美意識を発見することができる非凡なセンスは、ガス・ヴァン・サントが求める実験的アプローチに最適なクリエイターだった。
『小説家を見つけたら』予告
『小説家を見つけたら』(00)でガス・ヴァン・サントと初めて組んだあとに、“Death Trilogy”を担当することになる。本人のインタビューでは、監督が腹をくくり、自由に作るために低予算を受け入れたことに自分も完全に同調し、スタッフの少なさや撮影期間の少なさも乗り越え、最高の現場だったと答えている。また、この3部作は、セリフも説明のためのショットも少ないため、セオリー通りにやる必要がなかったこと、加えて、カットを割らないことやカメラ位置をテーブルより高くしないことなどのルールも決めていたため、撮影が早く進むという利点しかなかったという。
現に、撮影日数は『エレファント』が17日、『ラスト・デイズ』が19日だった。いずれも演出が禁欲的な分、撮影面では自由度が高く、アーティスト気質のサヴィデスのクリエイティビティがいかんなく発揮された。第69回ニューヨーク映画批評家協会賞の最優秀撮影賞を『GERRY ジェリー』と『エレファント』の2作で同時受賞している。