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『KIDS』伝説の写真家ラリー・クラークが切り取った、アメリカン・ユースカルチャーの光と影
配給を担当した超大物
キャストに関しては、プロの役者はほぼ使わず、監督のスケーター友達を中心にキャスティングされた。また、制作予算が少なかったため、衣装はキャストの自前の服で撮影され、結果そのほとんどがSupremeとなった。しかしこれにより、この映画は本物であると、スケーター達に認められることとなる。ちなみに、ラリー・クラークとSupremeは、2015年に20周年を迎えた『KIDS』を記念してカプセルコレクションを発表している。
ラリー・クラークは、写真家出身の映像作家にありがちな、一枚画の強さで勝負する手法は取らず、手持ちや長回しを多用、キャストの生き生きとした姿を追い続ける。しかし皮肉なことに、若者の有り余るエネルギーが映し出されるほど、HIVなど意に介さない、彼らの刹那的な切なさが漂ってくる。
インディーズの映画制作ではよくあることだが、制作を開始しても公開が決まってないことがある。過激な内容の本作もそうであった。しかし、ここで現れるのが、大プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインである。今となっては悪名高き存在になってしまったが、さすが金のなる木を見つけるのがうまいのか、本作は彼の目に止まったのだ。
ワインスタインは配給を名乗り出るが、彼が代表を務める会社ミラマックスはディズニー傘下だったため、17歳以下鑑賞禁止のような映画は配給できないルールであった。ワインスタインは英断をする。なんと本作上映のための配給会社を作ったのだ。上映前に大きく映る「エクスカリバーフィルムカンパニー」はその会社の名前である。
かくして公開された映画は、世界中で話題を呼んだ。Supremeの全面協力や、宣伝ビジュアルの巧みさもあり、スケーターに興味のない層にも受け入れられたのだろう。本作のヒットをきっかけに、ラリー・クラーク、ハーモニー・コリンらは次々と映画を制作していく。
また、当時ハーモニー・コリンと交際していたクロエ・セヴィニーも、独特の存在感を持つ女優兼モデルとして活躍するようになっていく。しかし一方で、メインで出演していたジャスティン・ピアースは2000年にラスベガスで自死を選び、同じく出演していた有名スケーターのハロルド・ハンターは、2006年に薬物のオーバードーズでこの世を去っている。
危険と隣り合わせのユースカルチャーを、ギリギリのバランスでフィルムに定着させた『KIDS』。いまだに色あせない危うい魅力を放っているのは、そこに映っているものが本物だからに他ならないだろう。
文:江口航治
映像プロデューサー。広告を主軸に、メディアにこだわらず幅広く活動中。カンヌはじめ国内外広告賞多数受賞し、深田晃司監督『海を駆ける』(18)やSXSWへのVR出展など、様々な制作経験を経たプロデューサーならではの視点で寄稿してます。
『KIDS』
DVD&Blu-ray発売・レンタル中
3,800円 (税抜)
発売元 :株式会社ディメンション 発売協力:ピカンテサーカス
販売元 :ハピネット(ピーエム)
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