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『グレムリン』はもっと残酷でグロいはずだった!?学生の脚本をヒット作に昇華させた、スピルバーグのプロデュース術

『グレムリン』はもっと残酷でグロいはずだった!?学生の脚本をヒット作に昇華させた、スピルバーグのプロデュース術

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可愛いギズモは中盤以降、消滅する予定だった?



 急遽、現場で飛び出したアイディアがまかり通って、オリジナル脚本とは全く異なる展開を歩み始めたケースもある。中でも有名なのが、あの可愛いギズモの命運である。


 というのも、当初の予定では、ビリーのもとへやってきたギズモそのものが、やがて邪悪なグレムリン “ストライプ”へと変貌するという設定だったのである。つまりギズモは中盤から消滅し、全くの「出番なし」となるはずだったのだ。


 が、ここで鶴の一声をあげたのは製作総指揮のスピルバーグだった。「あんなに可愛いギズモが途中でいなくなってしまうなんて、もったいない!」と感じた彼は、ギズモを最後まで出演させるという展開へ差し替えたのである。なるほど、この効果もあって本作はどれだけグロテスクなシーンがあろうとも、そこにギズモの可愛らしい表情を一瞬差し込むだけで不思議と中和してしまう魔法を手に入れたことになる。


 が、これによって技術チームにとって新たな悩みの種が増えることに。ギズモが最後まで生き延びるとなると、主人公ビリーらと共に一緒に移動するシーンが必要となる。そして、手足の短いギズモは歩いたり走ったりできるタイプの人形ではなかったのである。


 そのような動きをさせるのは技術改革が必要だ。時間も手間もかかる。そこで一計を案じたスタッフはギズモが歩かなくていいように、彼をビリーの背中のリュックに入れて移動することを決めるのである。こうすれば、後はリモコン操作で上半身を動かしておくだけで事足りる。



『グレムリン』


 これは現場のとっさの判断だったかもしれないが、しかし面白いことにリュックからちょっとだけ見えるギズモは、逆に観客の胸を大いにくすぐる存在となった。こうなるともはや主人公の地位もビリーからギズモへと譲渡されたようなもので、本来ならばビリーがとどめを刺すはずだった最後の一手も、完成版を観ると編集によってすべてギズモの活躍へとまるっきり差し替えられていたのだとか(これもスピルバーグによる指示だった)。主演のザック・ギャリガンにしてみれば大変悔しい結果だったに違いないが、しかし映画にとってはこれで大正解。ギズモをアイコンとした一貫性を手に入れることで、見事なまでに子供から大人まであらゆる世代が魅了されるファミリー向けエンタメ作へと昇華されたのである。


PG13新設のターニング・ポイントに



 本作はこのような経緯を辿りながら、当初のダークなホラーの質感は薄められ、上質なファミリー向けのテイストに生まれ変わった。しかしそれでもなお、観客や批評家の中には「あのシーンは暴力的すぎる」「このシーンはグロテスクすぎる」と眉をひそめる人もいたのだとか。


 こういった批判が出るのは、当時のアメリカのレイティングがPGとRしかなかったから。『グレムリン』はPG(子供の鑑賞には保護者の同伴を推奨)扱いで公開されたのだが、なるほどこの曖昧な尺度では、結果的に「子供にとっては残虐すぎる」という声が出てしまうのも当然なのである。


 奇しくも全く同じ指摘がなされたのが、同年公開の『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』だったという(そういえば猿の脳味噌シーンなどがあったなあと、、)。ともにファミリー層を動員して大ヒットを記録したからこそ巻き起こったこのレイティング論争。これら二作をきっかけに、アメリカ映画協会(MPAA)は新たにPGとRの中間となる「PG13」を新設して、より多様な観客のニーズに応えるべく対応するようになったのだとか。


 このようなエピソードからも、1984年という年代がいかに表現の過渡期であったかが伺える。ジャンルの垣根などもはや意味をなさず、若い世代によって予想をはるかに超える創造力が次々と炸裂していた当時の映画界。『グレムリン』はそんな時代を率先して突き進んだ、まさに代表選手のごとき一作だったのである。



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。 



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『グレムリン』

ブルーレイ ¥2,381+税/DVD ¥1,429 +税

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