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『マッドマックス2』が与える後世への影響と、英雄神話から読み解く“ヒットの法則”とは
世界の神話を比較すると“ヒットの法則”が見えてくる?
「千の顔をもつ英雄」の著者であるジョーゼフ・キャンベルは、比較神話学を研究しているアメリカの神話学者だ。比較神話学とは、地球上の様々な文化圏に根付く神話/民話、あるいは伝承を追究し、それらに認められる普遍性、または類似性を抽出する、という学問だ。
ジョーゼフは、世界中に散らばる神話のサンプルを分析し、そこに同一の構造があることを発見した。つまりジョーゼフが提示するのは、物語における“共通点”であり、洋の東西に伝わる神話の多くには、共通する一連のパターンがあると説く。
神話上の英雄叙事詩は、基本的に同じルールに従っており、その人類普遍とも言うべき物語が人々の興味を惹きつけてやまないのだと。この物語論は一般的に“Hero's Journey(以下、「英雄の旅」と総称する)”と呼ばれている。
世界中のクリエイターたちは物語創作の手助けとして、この“英雄の旅”を引用し、それに倣うことで多くの神話的物語を創造している。では、“英雄の旅”が流布するところの物語的共通というのは、果たしてどういうものか。簡素に言うなれば、主人公が日常から別の非日常へと遷移し、何らかの試練を経て、再び日常へ帰還するという構造だ。
『マッドマックス2』(c)2007 Warner Entertainment Inc. All rights reserved.
これは、『マッドマックス2』の物語そのものであり、『スター・ウォーズ』(77)、『ロード・オブ・ザ・リング』(01)など、極めて多くの映像作品がこの流れをくんでいる。今では、多くの脚本家にとって、物語創作の基礎として役立っている。
監督のジョージ・ミラーも例外でなく、彼も多くのクリエイターと同様に、ジョゼフの説く“英雄の旅”の普遍性を引用し、『マッドマックス2』のプロットを共同で書き上げた。その後の作品のヒットは我々の知るところだが、ではなぜ、“英雄の旅”を引用すると作品は軒並み好意的な評価を得るのか。それは、英雄の神話的冒険の普遍的なパターンというのは、往々にして、私たちの人生そのものであるからだ。
すなわち、『マッドマックス2』の物語は、人類の多くを共感させる神話と同等のパワーを擁しているからであり、その神話の普遍性というのは、私たちの多くの人生と等しく類似しているからであろう。
“世紀末”という陳腐化した設定を用いながらも、ジョゼフの“英雄の旅”を引用することによって、ある種の化学反応的な作用が働き、唯一無二の世界観を構築するに至ったのだ。