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『マッドマックス/サンダードーム』人間ドラマに重きを置き、チェイス・シーンを大幅に削除したワケとは
2020.09.11
ハリウッド資本投入の新生『マッドマックス』
本作は、ハリウッド資本で製作された最初の『マッドマックス』シリーズとして始動した。ハリウッドと大きくコミットメントし、歌姫ティナ・ターナーをキャスティングした本作。ターナーの映画本格出演はおよそ10年ぶりだったが、彼女の演技は極めて高く評価され、全米黒人地位向上協会(NAACP)主催のイメージ・アワードで主演女優賞に輝いた。
また、ターナーは、歌手として本作のサウンドトラックにも楽曲を2曲提供している。「We Don't Need Another Hero」「One of the Living」の2曲であり、どちらも国内外で記録的なヒットを飛ばした。特に後者でのヒットによりターナーは、第28回グラミー賞で最優秀女性ロック・ヴォーカル・パフォーマンス賞を獲得している。
ハリウッドの潤沢な資金の助けもあってか、前作以上に大規模なオープンセットで撮影が敢行された。ティナ・ターナー扮するアウンティ・エンティティが支配しているバータータウンは、シドニー西部郊外のホームブッシュベイに位置するブリックピットリングウォークに建てられた。エキストラの数はおよそ400人。街を丸ごと作ってしまうのだから、ハリウッドの意気込みには恐れいる。
『マッドマックス/サンダードーム』(c) 2013 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved.
カーゴ・カルト(招神信仰)に傾倒している子供たちの村落は、ニューサウスウェールズ州のブルー・マウンテンズで撮影された。この地は常に氷点下の世界なので、吹きぶりの雨に悩まされるなど、過酷な撮影現場だったという。ちなみに、本作における子供たちの設定は、ウィリアム・ゴールディングの小説「蠅の王」から借用したものだそう。同書の舞台は大戦さなかの近未来。疎開地へ向かう一機の飛行機が墜落し、乗員である少年たちは南太平洋の無人島に置き去りにされてしまう。まさに『マッドマックス/サンダードーム』での物語そのままだ。
クライマックスのチェイス・シーンを含む幾つかのシーケンスは、南オーストラリアに位置する鉱山の街クーパー・ベティで撮影された。この土地には、チェイス・シーンに必要な荒涼とした土地と、延々と続く鉄道線路が敷かれていた。しかしクーパー・ベティは気温の変動が激しく、暑い時には最高摂氏60度まで干上がり、寒い時には氷点下摂氏20度近くまで下がる。そういう厳しい環境の中で、クライマックスのチェイス・シーンは撮影されたという。
様々な環境の土地を映し出し、街丸ごとの巨大オープンセットを建てるなど、ハリウッド資本の強大さをまざまざと思い知らされる。
全てが大規模だった。しかし、前作での激しいチェイス・シーンは削減され、今作では情緒的な人間ドラマに大きく舵を切っている。前2作とは大幅に異なる、全く新しい一篇の誕生だ。なぜなのか。そこには、ある人物の急死という隠された悲劇が関係していた。