2020.09.29
チャドウィック・ボーズマンの努力と才能
そんな偉大なアーティストで唯一無二の人間ジェームス・ブラウンを演じたのが、チャドウィック・ボーズマンだ。正直、普段の彼からはジェームス・ブラウンの要素を全く感じない。前作『42 ~世界を変えた男~』で演じた、真面目で高潔なジャッキー・ロビンソンの印象の方が強く、陽気で自信たっぷりなジェームス・ブラウンのイメージは皆無だ。
「あの個性的で最高の才能を持つジェームス・ブラウンを演じられる俳優など、そうそう見つからない」ジェームス・ブラウンを知る者ならば誰もが思うはずだ。だがチャドウィック・ボーズマン演じたジェームス・ブラウンは見事な「ゴットファーザー・オブ・ソウル」だった。私がここまで書いたジェームス・ブラウンを形容した言葉の全てを見事に含んでいた。偉大な歌手でありダンサー、そして黒人のために献身的にサポートした伝説の男、ジェームス・ブラウンそのものだったのだ。
『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』(C) 2014 Universal Studios. All Rights Reserved.
驚いたのが、あのマイケル・ジャクソンも憧れて真似したという、ジェームス・ブラウンの難しいステップやスプリットからの立ち上がりのダンスを、劇中ではチャドウィック・ボーズマン自身が代役を使わず演じたことだ。チャドウィック・ボーズマンはダンスを習った経験がないにも関わらず、たった10日間の練習期間で習得したという。しかし1日あたり6~8時間も練習しており、血のにじむような努力の末のダンスなのだ。
本作の見どころとなるライブシーンは圧巻であり、あのジェームス・ブラウンのダンスをよみがえらせてくれたのは非常に嬉しい。実際のジェームス・ブラウンのパフォーマンスと、チャドウィック・ボーズマンのパフォ―マンスを比べた映像がネットには出回っており、ボーズマンがいかにジェームス・ブラウンになり切っているかが分かる。何しろ、ほんの1年前には真面目人間ジャッキー・ロビンソンを演じていたのに、本作ではファンキーなジェームス・ブラウンを完璧に演じているのである。
ジェームス・ブラウンと、チャドウィック・ボーズマンの比較映像
そして我々はその4年後に、『ブラックパンサー』(18)にて清廉潔白なスーパーヒーロー・ブラックパンサーを演じる、チャドウィック・ボーズマンを見ることになる。この振り幅の広さは、役者であるボーズマンにとって貴重で有意義な経験だったであろう。
偉大なるミュージシャン・ジェームス・ブラウンの伝説。あの激しくカッコいい踊り、人間臭さ、愉快さ、豪快さ、悩みや苦悩ーー、 それらは、チャドウィック・ボーズマンの類まれなる才能と並外れた努力によって甦った。本作は、ジェームス・ブラウンの最高の魂までも描ききった自伝映画となったのである。
雑誌「映画秘宝」(洋泉社)を中心に執筆。著書『ブラックムービー ガイド』(スモール出版)が発売中。
『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』
Blu-ray: 1,886 円+税/DVD: 1,429 円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
(C) 2014 Universal Studios. All Rights Reserved.
※ 2020年09月の情報です。
(c)Photofest / Getty Images