初監督作品は自分のストーカー被害体験談
その後マルパソ・プロダクションには、イーストウッド無二の親友のフリッツ・マーネイズ、出世作『ローハイド』(59〜65)出演のきっかけをつくったソニア・チャルナスらが入社。気心知れた仲間とファミリー的な経営を続け、イーストウッドは『ペンチャー・ワゴン』(69)、『真昼の死闘』(70)、『白い肌の異常な夜』(71)など野心作をプロデュースしていく。
やがてイーストウッドは主演・製作のみならず、監督業にも意欲を見せ始める。彼は『ローハイド』の時から、放送局のCBSと何本か演出をさせてもらう約束を取り付けるほど、ディレクションには並々ならぬ関心を抱いていた(もっともこの話は、CBSが別のドラマで俳優に演出をさせたところ、予算が大きくかさんだことから、反故にされてしまうのだが)。
『恐怖のメロディ』予告
さっそくイーストウッドは、ユニバーサルと3本の映画出演契約を交わした際、「タダでもいいから、一本監督をやらせてくれ!!」と鼻息荒く説得を試みる。彼がピックアップした作品は、『恐怖のメロディ』(71)。地方局のディスクジョッキーが一夜を共にした女性に付きまとわれるという、サイコ・サスペンスだ。
不屈の男イーストウッドの記念すべき第一回監督作品が、「女性ストーカーに追いかけ回される話」というのはちょっとイメージにそぐわないが、彼は実生活でも同じような経験をしていた。元カノが異常なまでにイーストウッドに執着し、自殺すると脅しまくったのだ。自分の体験談を初監督作品に利用するというのは、確かに理にかなった選択だろう。
イーストウッドの並々ならぬ熱意に押されて、ユニバーサル幹部のルー・ワッサーマンはGOサインをだす。かくして、クリント・イーストウッドはフィルムメーカーとしての一歩を踏み出した。