『恐怖のメロディ』あらすじ
「『ミスティ』をかけて…」今夜もデイブがDJを務めるラジオ局の電話が鳴った。やがてその女、イブリンと知り合ったデイブは、彼女に誘われるまま一夜を共にする。だがイブリンの異常な嫉妬深さと、常軌を逸した行動を目の当りにしたデイブは、彼女に別れ話を切り出す。その日からイブリンの血も凍る報復が始まった…。
Index
「険しい道」=マルパソ・プロダクションの設立
トム・クルーズの「クルーズ/ワグナー・プロダクションズ」、ブラッド・ピットの「プランBエンターテインメント」、レオナルド・ディカプリオの「アッピアン・ウェイ」。今や映画界は、ハリウッド・スターが自ら映画製作会社を立ち上げて、出演作をプロデュースする時代。
エージェントから手渡された台本を読み、出演を吟味するだけでは、やりたい作品もやりたい役も回ってこない。的確に自分を売り込むためのブランディング力、プロジェクトをスタートアップさせる推進力、そして緻密なマーケティング力が、これからのスターに課された必須スキルなのだ。
ウィル・スミス、ナタリー・ポートマン、ドリュー・バリモア、アシュトン・カッチャーといった俳優たちも、自由な映画製作を求めて、自身のプロダクションを立ち上げている。
その礎をつくったのが、我らがクリント・イーストウッド翁だろう。時は、彼がマカロニ・ウェスタンの大スターとして活躍していた’60年代まで遡る。『続・夕陽のガンマン』(66)の撮影が終了したばかりの彼の元に、『マッケンナの黄金』(69)の出演オファーが舞い込んでくる。アパッチ族が隠した伝説の黄金地図を巡って繰り広げられる、ド派手な西部活劇。しかし、イーストウッドはこの企画に乗り気ではなかった。銃をぶっぱなすだけの単なるアクション映画には、飽き飽きしていたのだ。
『奴らを高く吊るせ!』予告
それよりも彼が興味を示したのは、西部劇の枠組みの中で死刑制度を描いた異色作『奴らを高く吊るせ!』(68)だった。『マッケンナの黄金』よりもはるかに地味なこの企画に協力するために、イーストウッドは製作会社「マルパソ・プロダクション」を設立する。「自分がつくりたい映画を自由につくる」という純粋な熱意で、イーストウッドは映画製作という荒波に出航したのだ。しかも50年以上も前に!
ちなみにマルパソとは、スペイン語で「険しい道」という意味。あえて自分のプロダクションにそんな名前をつけてしまうあたりに、イーストウッドの鉄の意志をみる思いなり。