2020.10.21
焼き直しではなく、フレッシュな魅力を伝えるために
この伝統的なものと新しいものとのミクスチャーはいかにして生まれたのか。もともとのきっかけは、ジョンソン監督と『ミラーズ・クロッシング』(1990年製作のコーエン兄弟によるサスペンス作)の出会いにまで遡るという。当時、未成年だった彼は、インタビュー記事を通じてコーエン兄弟がダシール・ハメットの小説からもろに影響を受けてこの映画を撮ったことを知る。そこで俄然興味を持ってハメットの作品を読み始めたところ、彼自身もすっかり虜に。
それからというもの、彼は小説にとどまらず、これに関連したフィルムノワールにも手を伸ばすなど、その興味関心の領域を一気に広げていったそうだ。
『ミラーズ・クロッシング』予告
その後、大学で映画製作を学んだジョンソンが初長編作の構想を練るにあたり、まず頭に思い浮かんだのもやはり、この1930年代から40年にかけてのダシール・ハメット流ハードボイルドへの憧れだった。
しかし、単に使い古された要素の焼き直しでは映画化する意味がないし、観客にもすぐに先読みされてしまう。彼の願いはただひとつ。自分がダシール・ハメットの小説を初めて読んだ時に感じた衝撃を、観客にも極めてフレッシュな状態で味わってもらいたい、という点に尽きた。
そこでひらめいた答えこそ、未知なる変数との掛け合わせだ。ジョンソンは、従来のありきたりな「暗黒街」ではなく、観客にとって予測不能な「学園」や「高校生」といった要素の中で物語を展開させることにした。その結果、歴史に埋もれていたノワールやハードボイルドの魅力を、極めて純度の高い状態で、フレッシュに輝かせることが可能となったのである。