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『エンゼル・ハート』アラン・パーカーの世界観に染まる、ミッキー・ロークの悲哀

『エンゼル・ハート』アラン・パーカーの世界観に染まる、ミッキー・ロークの悲哀

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成人指定をまぬがれ、後にカルトムービーへ



 87年に日本で上映された時はおどろおどろしい雰囲気とミッキー・ローク人気が功を奏して、日本でも話題を読んだ作品だが、アメリカでは、最初、成人指定になりかけたという。ロークとリサ・ボネットの激しいラブシーンが問題となり、少し手をいれることで、ひとつ下のR指定ですんだようだ。この場面はエロスだけではなく、天井から大量の血がしたたり落ちる恐怖演出も強烈だ。


 他にもこの映画にはショッキングなイメージがてんこ盛り。ジョニーの秘密を知ると思える人物たちが次々に悲惨な末路をたどるが、その殺し方は(日本の横溝正史物のように)奇抜、かつグロテスク。また、南部のブードゥー教の儀式が登場し、ニワトリが悲惨な姿をさらす。こうしたホラー調の場面は、目を覆いたくなるほど残忍で、まさに“地獄”に足を踏み入れた気になるが、一方、その映像には洗練された優雅さも感じられる。


 アラン・パーカーはCM界出身で、現代的なシャープな映像を撮る監督だったが、この作品では、らせん階段や古いエレベーターなど、暗がりの撮り方がうまく、影を効果に使うことで品よく全体の恐怖を盛り上げていく。また、黒人の子供がタップダンスを踊る時の足をクローズアップにして、カチカチと靴の鳴る音で緊迫感を高め、さらにドクドクという心臓の音を効果音として使うことで、恐怖が迫る感覚を生み出す。ホラーのおぞましさとハードボイルド映画のムーディな雰囲気のサンドイッチ的な構成になっているのだ。




 そして、最後まで見終わってみると、実はシンプルな物語だったことに気づくが、見ている時は雰囲気に飲まれ、ドキドキしながら画面に見入ってしまう。そして、謎が分かった後、最初から見直しても、また楽しめる。パーカーの映像と音のセンスが冴えているせいだろう。


 もちろん、全盛期のミッキー・ロークも魅力全開! だぼっとしたスーツに、よれよれのコート。幅広のネクタイ。すごくルーズなファッションなのに、男の色気があふれ、そのクルクルと変わる表情からも目が離せない(時おり、赤ん坊のように無邪気な表情も見せる)。


 パーカー監督に90年代に取材した時、この映画の話題も出た。「あの映画のミッキーは素晴らしかったです。彼のベスト演技だったかもしれませんね」私のそんな問いかけにパーカーも同意してくれた。


 「確かに彼の最高の演技かもしれないね。あの役は本当にミッキーにピタリとハマっていたし、彼自身もすごく心地よさそうに役を演じていた」


 自身の映画サイトでは「ハリー・エンゼル役が見る人の共感を誘うようにしたいと思った」と監督は語っているが、その狙いも成功していて、すべての謎が明かされた時、ハリーの抱える深い絶望と哀しさが見えてくる。なにか人間の宿命のようなものが感じられるエンディングになっていて、悪魔のような残酷さと悲哀が同居したハリー・エンゼルという人物に魅せられてしまう。


 劇中、母親の恋人だったというジョニー・フェイヴァリットについて、エピファニーがこう語る場面がある。「母はジョニーについてこう言っていたわ。彼は悪魔に近い男だった。でも、それでいて、最高の恋人だった」


 最悪の男なのに、最高に魅力的な恋人。ジョニーに関するそんな表現が、アクターとしてのミッキー・ローク自身にも重なって見える。矛盾した部分を抱えたミッキーだからこそ、主人公の哀しみを体全体で表現できたのかもしれない(それは彼自身が抱える哀しみかもしれない。その後の代表作『レスラー』(08)でも、彼の哀しさが胸につきささった)。ソフトで、マシュマロのような声も、ミッキー・ロークの魅力だったが、そのやわらかなセリフ回しも本作では堪能できる。 


 監督によればこの映画は今では世界中でカルト的な人気を得ているという。絶頂期にアラン・パーカーのように力のある監督と出会い、最良の演技を残せたことは、ミッキーにとって本当に幸運だったのではないだろうか。その後、不遇な役者人生を送ることになるミッキーだからこそ、映像の奥に刻まれた若き日の姿が、今ではさらに輝いて見える。



文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書に「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「週刊女性」、「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



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『エンゼル・ハート』

Blu-ray発売中 3,800円(税抜)

発売元:TCエンタテインメント/是空

販売元:TCエンタテインメント

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