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『はじまりのうた』“ミュージック”と”ストリート”が合体したジョン・カーニー渾身の1作がしみじみ目と耳に染み入る理由

『はじまりのうた』“ミュージック”と”ストリート”が合体したジョン・カーニー渾身の1作がしみじみ目と耳に染み入る理由

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野外録音でアルバムを制作



 ヒジネスパートナーのサウル(演じるのが人気ラッパーのモス・デフなのが皮肉)と共にレコードレーベルを立ち上げ、一時期ヒットメーカーとして活躍したダンだったが、マーケティングとセールス優先の音楽ビジネスに嫌気が差し、サウルと大喧嘩して会社を退社。しかし、ダンはグレタと出会ったことで彼女のアルバム制作をサウルに持ちかける。


 「とりあえずデモ(音源)を作ってみてくれ」と提案するサウルに対して、ダンは無謀にもスタジオ録音ではなく、ニューヨークの屋外に飛び出して、街の喧騒を取り込んだライブ録音でアルバムを作って見せると言い放つ。こうして、ジョン・カーニーが目指す”ストリート”と”ミュージック”のコラボレーションは、明確な形となって物語を形成していく。


 ボーカルのグレタ、ディレクター&録音担当のダンの周りに集まってくるのは、スタジオミュージシャンの仕事に飽き飽きしていたり、バレエスクールでのピアノ伴奏に辟易していた、いずれも自分の音を奏でたくて仕方ない、恵まれないミュージシャンたちだ。




 そんな即席ユニットが、ワシントンスクエアのワシントンアーチの下や、セントラルパークにある池”The Reservoir”に浮かぶボートの上や、地下鉄、ボードストリートのホームなどで演奏するシーンは、音楽が風景と切っても切れない関係にあることを如実に物語っている。


 また、ダンとグレタのチャレンジは、売れ筋を追求して損益分岐点をクリアしようとするレーベルのビジネス優先主義に対して、たとえ売れなくても自分の音楽をリスナーに届けようとするミュージシャンたちの意思を代弁している。このコンセプトは、かつてカーニーがミュージシャン時代に垣間見た事実を基にしていて、ダンのキャラクターはその際カーニーが出会ったレーベル担当者に着想を得ているという。


 つまり、『はじまりのうた』は今や巨大ビジネスと化した音楽業界が捨て去った音作りの理想を、フィクションという形で具現化した、監督にとっては狙いすましたリベンジマッチなのである(カーニーは脚本も兼任)。それを「青臭い」と切り捨てるのは容易い。しかし、作品全体に充満する映像と音がもたらす至福の時間は、映画ファンならば当たり前のこととして受け入れるに違いないのだ。



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