(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
『L.A.コンフィデンシャル』娯楽と芸術を高い水準で成立させた、傑作フィルム・ノワール
2020.11.04
複雑な脚本と耽美的なスタイル
本作でとくに注目したいのが脚本だ。原作小説のある映画は、枝葉を切り落としてシンプルなものにするのが基本的な対応である。とくにハリウッド娯楽映画における脚本術は、これが徹底されていることで多くの観客をほどよく楽しませることができる。にもかかわらず、本作は複雑な要素を脚本に多く残し、その凄まじい情報量をスピーディーに描いていくという、マーティン・スコセッシ監督の作風を想起させながらも、さらにそこに耽美的な情緒を加えたような、特徴的な演出スタイルをとった。
労力をかけたシーンが惜しげもなく次々に流れていく内容は、ときに観客を疲弊させるかもしれない。だが、観る者を置き去りにするぎりぎりのラインをねらうことで、本作は圧倒的な奥行きを獲得し、そこにちゃんと“ノワール世界”が存在し、スクリーンのなかに入っていけるかのような雰囲気を醸成させている。そして、ハリウッドの黄金時代における“夢の街”ロサンゼルスだけにあった、きらびやかな世界は、上質なカクテルで気持ち良く酔っているような空気をも生み出すのだ。
『L.A.コンフィデンシャル』(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
TVの刑事ドラマの顧問を務め、密かに情報をゴシップ誌に流している、世渡りの上手いベテラン刑事ジャック(ケヴィン・スペイシー)。熱血漢で武闘派、女性への暴力を何より許せない刑事バド(ラッセル・クロウ)。卓越した頭脳を持ち、将来を嘱望される若手エリート刑事エド(ガイ・ピアース)。本作の設定でユニークなのは、この3人の刑事が主人公になっており、バラバラに動いている彼らの動きが、ときに交差し、ときに連携を見せるという部分があるところだ。
キャリア組として出世を約束されているも同然のエドは、バドやジャックが体現するような、“荒くれ者”だったり“曲(クセ)者”たちがひしめく、警察署のなかで最もハードな刑事課での勤務を希望する。そんなエドに、「凶悪犯罪に立ち向かうためには、腕っぷしの強さと、ときに汚いやり方で手を汚すことが必要だ」と、『ベイブ』(95)では人の好い農夫の役だったジェームズ・クロムウェルが演じる、警部ダドリーがアドバイスする。しかしエドには、刑事だった父に起きた事件をきっかけに、世の中を悪くする極悪人と戦う存在になりたいという、子どもの頃からの熱いハートがあったのだ。
そんなエドは、刑事課で手柄をあげようと奮闘し、ナイト・アウル事件に関係しているとみられる少年たちへの巧みな尋問や、証言によってあぶり出された黒人の容疑者たちとの激しい銃撃戦で大活躍し、一躍英雄として、さらなる出世が期待される存在になっていく……。