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『L.A.コンフィデンシャル』娯楽と芸術を高い水準で成立させた、傑作フィルム・ノワール

(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『L.A.コンフィデンシャル』娯楽と芸術を高い水準で成立させた、傑作フィルム・ノワール

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俳優陣の迫真の演技でさらなる深みへ



 さらに、ロサンゼルスは警察の腐敗にまつわる数々の事件でも有名だ。前述したような差別的な暴力をはじめ、賄賂の受け渡しや、職権の濫用による犯罪が継続的に行われてきた。本作においても、私怨から留置場の被疑者に暴行したり、ギャングに警察の情報を売っている悪徳刑事が登場する。本作の主人公は、あくまで正義を行使しようとする刑事たちである。しかし、むしろ前述のようなワルこそが作品の本質を表しているのではないだろうか。


 役としては大きくないが、本作に登場する、警察に籍を置いていた“小悪党”と呼べる者たち、リチャード・“ディック”・ステンズランド、リーランド・“バズ”・ミークスらは、警察の腐敗を象徴する裏の主人公ともいえよう。さらに、富や権力を持った悪人も登場。娼館を営むピアス・パチェット(デヴィッド・ストラザーン)、エリス検事(ロン・リフキン)の傲岸不遜な憎たらしさ。悪党一人ひとりの味わい深さにも、ぜひ注目してほしい。


 だが、最も演技を褒め称えたくなるのは、やはりキム・ベイシンガーだろう。彼女が演じるのは、『拳銃貸します』(42)などフィルム・ノワールにおける“ファム・ファタール”を演じた女優ヴェロニカ・レイクそっくりの高級娼婦、リン・ブラッケンである。そして、リンは本作のファム・ファタールとしての役割を負わされている。



『L.A.コンフィデンシャル』(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.


 ファム・ファタールとは、もともと“運命の女”を意味するフランス語だが、本作のようなノワール映画に登場する、ミステリアスで蠱惑的な雰囲気を持った女性のことも指す。主人公はそんなファム・ファタールに惹かれ、謎のなかへと引きずり込まれていくのだ。


 原作ではリンは整形してヴェロニカ・レイクに似せてあるという設定だが、映画ではもう少しソフトに、“もともと似ていた”という設定に変更されている。そしてベイシンガー自体も、ヴェロニカ・レイクの陰のある雰囲気を見事にトレースしているといえよう。本作が俳優としての大きな飛躍となったラッセル・クロウ演じるバドは、ナイト・アウル事件を捜査するなかでリンと出会い、ノワールのセオリー通りに彼女の魅力に惹きつけられていく。


 バドは前述したように、何よりも女性を傷つける男に対して憎悪を燃やす人物だ。それは、彼の子ども時代の家庭環境に理由があった。しかし、リンを愛するあまり、彼は嫉妬心から彼女に暴力を振るってしまう。そのときのラッセル・クロウの演技は、自分が衝動的にやってしまったことのおそろしさや、最も憎む父親と同じことをしてしまったという自分への嫌悪感、リンへの自責の念がないまぜになった複雑な表情を見せる。


 そして、そんな素晴らしい演技を受けたベイシンガーの演技も圧倒的だ。リンはバドが女性に暴力を振ることを何よりも嫌っていることを知っている。彼女は自分の身の危険や痛みよりも、そんな彼の心を自分がここまで傷つけてしまったということに深い悲しみを感じ、バドをいたわる感情と、自分自身の境遇への絶望をも感じることになる。


 もちろん、ここで描かれる暴力行為自体は肯定できるものではないが、同時にそれがどうにもならない二人の極限的な愛の表現ともなっているのだ。この後、バドは命をかけて戦い、物語の倫理性を保つために、暴力を振るったことへの報いを受けることになる。



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