2020.11.26
ケヴィン・コスナーと<西部劇>
物語は、1860年代のアメリカ西部が舞台。南北戦争で負傷しながらも英雄となったジョン・ダンバー(ケヴィン・コスナー)が、「失われつつあるフロンティアを見ておきたい」と辺境の前哨基地に赴任することを希望。見渡す限りの荒野で自給自足の生活をしながら、やがて近隣のスー族たちとの交流が始まるというもの。最後の西部、という西部開拓の終わりを描くことで<西部劇>を変容させた『ダンス・ウィズ・ウルブズ』が、“望まれた作品”ではなかったのには、他にも理由がある。
既にお気付きの方もいらっしゃると思うのだが、『シルバラード』はケヴィン・コスナーの出世作のひとつ。つまり、1980年代に<西部劇>というジャンルの復活に関わり、1990年代に<西部劇>というジャンルを変容させた重要人物こそ、ケヴィン・コスナーだったと言えるのだ。しかし、衰退した<西部劇>というジャンルが観客に受け入れられなくなった時代。ネイティブアメリカン側の視点で白人を批判した物語、3時間の上映時間、私財をつぎ込んだ2,200万ドルもの巨額な製作費、先住民の言葉が英語字幕で表示される演出、演出経験のない俳優が監督しプロデューサーを兼任する、など『ダンス・ウィズ・ウルブズ』は興行的にネガティブな要素だらけの作品だったのだ。
『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(c)Photofest / Getty Images
1890年代のワイオミング州を舞台に、<西部劇>というジャンルを否定する姿勢で描かれた変容の作品として、マイケル・チミノ監督の『天国の門』(80)が挙げられる。この映画は、予算の超過によって映画会社ユナイテッド・アーティスツを経営危機に追い込んだという経緯があり、「映画災害」とまで批判された。巨額な製作費や3時間以上の上映時間、さらには製作の遅れなどが噂された『ダンス・ウィズ・ウルブズ』は、『天国の門』の原題である『HEAVEN’S GATE』をもじって、撮影中から『KEVIN’S GATE』と揶揄され、誰もが失敗すると思っていた、“望まれた作品”などではなかったのだ。