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『ダンス・ウィズ・ウルブズ』“望まれた作品”ではなかったアカデミー賞受賞の西部劇

(c)Photofest / Getty Images

『ダンス・ウィズ・ウルブズ』“望まれた作品”ではなかったアカデミー賞受賞の西部劇

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『ダンス・ウィズ・ウルブズ』にはネガティブな要素が多かった



 ケヴィン・コスナーが私財をなげうった理由は、ハリウッドのどのメジャー映画会社も製作費を出したがらないような企画だったからである。製作会社TIGプロダクションを設立したケヴィン・コスナーは、1,800万ドルという資金をかき集めながら、最終的には製作費が約500万ドルもオーバーしたという。単純計算すればわかることだが、例えば3時間(初公開版は181分)の上映時間があると、90分の映画を2回上映できることになる。観客が同じ入場料金を払うのであれば、劇場の上映回数が少なくなることで収益も下がる(その点で製作費の20倍近くを稼いだことは、この映画の興行的強さを感じさせる)。劇場にとっても配給にとっても、上映時間の長い映画はビジネス的においしくないのである。


 さらに、字幕に慣れない当時のアメリカの観客にとって、英語字幕が施されることは、残念ながら「言語に対するリアルな表現だ!」とはならず、「観るのが面倒だ」というネガティブな反応になる。ハリウッド映画の中で、外国人が突然英語を話し始めるという場面に遭遇するのは、そんな観客の反応があるためなのだ。その点で、全編英語字幕となる韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(19)のような作品がアカデミー賞に輝くことには隔世の感がある。


 『アンタッチャブル』(87)や『フィールド・オブ・ドリームス』(89)によって、新たな「アメリカの良心」という存在になっていたケヴィン・コスナーは、興行的なリスクを抱えながら『ダンス・ウィズ・ウルブズ』の撮影を開始したのだが、その苦労は序の口であったと述懐している。



   『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(c)Photofest / Getty Images


 そのごく一例だが、この映画には大量のバッファローが登場する。しかし撮影当時、すでに野生の個体は絶滅に瀕する状況だった。現在ならCG処理しそうなものだが、この時代、CG表現に革命を起こした『ジュラシック・パーク』(93)は、まだ製作されていない(原作小説の出版が1990年)。数千頭のバッファローを確保するため、またバッファローを走らせる広大な土地を確保するため奔走した結果、ケヴィン・コスナーはサウス・ダコタ前州知事の協力を得ることとなった。メイキング映像を見ると、バッファロー狩り場面が機械仕掛けの特撮によって撮影されていることがわかる。当然のことながら、撮影では一頭のバッファローも殺されていない。


 作品の予算規模にもよるが、ハリウッド映画における撮影日数の平均が60日から90日と言われる中、この映画の撮影期間は180日にものぼり、300人ものスタッフが現場で動いていた。「この映画のテーマは、過ぎ去った時代への私からのラブレターだ」とケヴィン・コスナーはインタビューで答えているが、その想いが叶ったことは、アカデミー賞の独占と興行的成功という結果によって“望まれた作品”に変容したことが物語っている。


 エンドロールには、この映画に関わったキャストのほか、300人以上スタッフの名前が記されている。その中にSpecial Thanksとしてケヴィン・レイノルズの名前がある。彼は前述のバッファロー狩りの場面で、演出に協力したことがクレジットの理由とされている。そもそもケヴィン・コスナーとケヴィン・レイノルズは、『ファンダンゴ』(85)の主演と監督という関係。初監督となるコスナーに協力したレイノルズとの友情は、この後「ふたりのケヴィン」として、『ロビン・フッド』(91)、『モアイの謎』(94)、『ウォーターワールド』(95)、因縁と決別を経て、TVドラマ「ハットフィールド&マッコイ」(12)といった作品へと系譜を紡いでゆくことになるのである。



【出典】

・キネマ旬報 1986年1月下旬号・2月下旬特別決算号

・「ダンス・ウィズ・ウルブズの世界」(TBSブリタニカ) ケヴィン・コスナー、マイケル・ブレイク、ジム・ウィルソン著 小山起功・訳

・デラックスカラーシネアルバム46「ケビン・コスナー」村岡三郎+望月美寿・責任編集(芳賀書店)

・「ダンス・ウィズ・ウルブズ」劇場パンフレット

・BOX OFFICE MOJO 「Dances with Wolves」

  https://www.boxofficemojo.com/release/rl944539137/weekend/



文: 松崎健夫

映画評論家 東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了。テレビ・映画の撮影現場を経て、映画専門の執筆業に転向。『ぷらすと』『japanぐる〜ヴ』などテレビ・ラジオ・ネット配信番組に出演中。『キネマ旬報』、『ELLE』、映画の劇場用パンフレットなどに多数寄稿。現在、キネマ旬報ベスト・テン選考委員、ELLEシネマ大賞、田辺・弁慶映画祭、京都国際映画祭クリエイターズ・ファクトリー部門の審査員を務めている。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)ほか。



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