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何者でもない映画青年たちを男にした、ハーヴェイ・カイテルという存在『レザボア・ドッグス』

何者でもない映画青年たちを男にした、ハーヴェイ・カイテルという存在『レザボア・ドッグス』


ハーヴェイ・カイテルとの出会いが運命を激変させた



 タランティーノにとって10代の終わりから20代の大半は「何ひとつうまくいかない時代」だったという。ご存知の通り、マンハッタンビーチのレンタルビデオ店で働きながら脚本を書き、なおかつ監督、俳優としてもいつかチャンスが舞い込んでくる日を夢見ていた彼。87年には仲間内で撮ったアマチュア映画”My Best Friend’s Birthday”にて脚本、監督、出演を担ったこともあった。誕生日に彼女と別れた男と、そんな彼のために奔走する親友の物語だ。が、実はこの作品、ラボで火災に遭い、36分のフィルムだけを残してあとは消失してしまった。初監督作がまさかこんな事態に陥ってしまうなんて、全く最凶運の持ち主としか言いようがないが、しかしこの作品のエッセンスはのちに『 トゥルー・ロマンス』の原案にもなったと言われる。なるほどこの男、転んでもただでは起きない人物のようだ。


元ネタの宝庫!タランティーノ初期の傑作脚本を考察する『トゥルー・ロマンス』


 そんな彼が一念発起して書き上げた脚本が『レザボア・ドッグス』だ。執筆期間は3週間。古いタイプライターで書式もむちゃくちゃ。誤字脱字だらけ。ほぼ勢いだけで書き上げたシロモノである。でも友人のローレンス・ベンダーが読んでみると、これが滅法面白いのだ。そこにはありったけの情熱を注いだ荒削りな魅力が詰まっていた。二人は早速、これを何とかしてモノにしようとタッグを組んで動き始める。


 当のタランティーノにしてみれば、この脚本を映画会社に売るつもりなどさらさらなかった。本作だけは自らの手で、誰からも指図されずに監督したかった。でもそんなことが可能なのか。その頃の彼らに出来たことと言えば、せいぜい3万ドルの資金調達くらいが関の山。現に当初は16mmフィルムを使った白黒映画、という構想だったのだ。


 だがここから、まさしく映画を超えるような未曾有の展開が彼らを飲み込んでいくことになる。運命を変えたのは一本の電話。いや、正確には留守番電話に吹き込まれたメッセージだった。ブルックリン訛りのその声は、映画オタクのタランティーノにとっては震えがくるほどの衝撃的な名を口にした。声の主はなんと、ハーヴェイ・カイテルだった。


「クエンティン、脚本を読んだよ。面白いね。セリフが素晴らしい。ぜひ一緒にやろう。もちろん、ボスは君だ。私に手助けをさせてくれ」




 なぜこんな幸運が舞い込んできたのか。その背景を紐解くと、まるで「わらしべ長者」のような顛末が浮かび上がってくる。全てはローレンス・ベンダーが受講していた演技クラスの教師に『レザボア・ドッグス』の脚本を渡したところから始まった。教師はまずその脚本を自分の奥さんに見せた。その奥さんというのがアクターズ・スタジオにも所属する女優でもあり、同スタジオに席を置くカイテルとも知り合いだったらしい。そうやって最後のバトンがつながり、ついに彼は脚本を手にすることに。かくして3日と経たないうちに、アメリカを代表するこの俳優は、まだ何者でもなかった映画青年タランティーノの才能を知り、「ぜひ出たい!」と切望するまでになったのである。


 誰もが予想し得ない、思いがけない展開だった。脚本の面白さ以外に取り柄のなかった彼らに強力な味方がついたわけである。資金集めもカイテルの名前のおかげで順調にいき、制作費は150万ドルにまで跳ね上がった。自ずとハリウッド界隈はこの脚本の話題で持ちきりとなった。



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