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何者でもない映画青年たちを男にした、ハーヴェイ・カイテルという存在『レザボア・ドッグス』

何者でもない映画青年たちを男にした、ハーヴェイ・カイテルという存在『レザボア・ドッグス』


タランティーノの身を貫いた「人生最良の瞬間」



 その後の顔合わせとして、ハーヴェイ・カイテルが当時借りていたマリブビーチ沿いの家でキャスト全員が食事会を行った。10代から20代後半にかけ、全くいいことがなかったというタランティーノ。だがここにきて彼はカイテルらの尽力を得て、ようやくスタート地点に経つ頃ができた。そうやって自分の手で選んだ頼もしい連中が、今ここで一堂に会する光景を目にし、思い切り胸を震わせていたという。


 彼は早くもこの時点で「この映画は必ず凄いことになる」と成功を確信したそうだ。もしも自分が采配を間違ったとしても、これだけのメンツが揃っていればなんとかなる。彼らがいれば失敗するわけがない。もう根拠のない自信なんて言わせない。これまで才能と情熱だけで突っ走ってきた彼にとって、カイテルを筆頭とする最高のキャスト陣はまさに成功の「根拠」に足るものだった。これほど力強い仲間たちに囲まれたのは人生においてこれが初めてだったに違いない。




 もちろんその思いは、役者側も同じだったはず。彼らにとってはこの男、タランティーノこそ「根拠」だ。彼ならば信用できる。役者の心理もきちんと知り尽くし、目指すべき方向性を一緒になって探ってくれる。それに脚本はこれまでに体験したことがないくらいクソ面白い。これだけの条件が揃って失敗するわけがない――――我々はその後の歴史を知っている。互いの確信は見事に実を結んだ。ここに集いし一人一人が、伝説の誕生を見届ける貴重な立会人となった。


 タランティーノは、この日の夜にドライブしながら、成功の香りに満ちた「人生で一番幸せな瞬間」を噛み締めたと述懐している。何の後ろ盾も持たなかった男が成功の石段を一つずつ駆け上がっていく様はいつ見ても気持ちがいい。かくも舞台裏には濃厚なエピソードがあり、友情があり、それらが自ずと本編に浸み出すかのように、作品の厚みや凄みにまで影響を与えていったのかもしれない。


 映画の最後、登場人物たちは出口なしのギリギリの状況へと追い詰められていく。だが現実には、追い詰められるどころか、これが世界へ向けて勢いよく開かれた「突破口」となり、今や映画ファンならば知らない人はいないラストと言われるまでになった。その後に発表した綺羅星の如き傑作群も相まって、映画界を代表する唯一無二の地位を築き上げたクエンティン・タランティーノ。彼とその一味の快進撃は、まさにこの作品から勢い良く踏み出されていったのである。



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。 



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© Photofest / Getty Images 

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