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『JFK』仕組まれたバッシング、オリバー・ストーンが挑んだケネディ暗殺事件 後編

(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『JFK』仕組まれたバッシング、オリバー・ストーンが挑んだケネディ暗殺事件 後編

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『JFK』が社会にもたらした影響とは?



 『JFK』のエンドロールには、こんな言葉が重ねられる(『JFK ケネディ暗殺の真相を追って』収載決定稿脚本より引用)。


「一九七六年から一九七九年にかけての下院の調査で、ジョン・F・ケネディ暗殺の“陰謀がおそらく存在した”という結論が出され、司法省に調査の再開が要請された。だが、一九九一年現在、司法省は何ら動いていない。下院暗殺調査特別委員会の資料は二〇二九年まで公開禁止だ」


 これは、ケネディ暗殺調査にあたったウォーレン委員会が1964年に『ウォーレン委員会報告書』としてオズワルドの単独犯行であることを結論づけた12年後に、合衆国下院に設けられた「暗殺特別委員会」がマーティン・ルーサー・キング・ジュニアの暗殺事件と共にケネディ暗殺事件の再調査を行ったもので、その最終報告書では、「ウォーレン委員会の結論、オズワルド単独犯説に同調しているが、それに付加された文章は、オズワルドのほかに共犯者がいたとする説にある種のふくみをのこす微妙な立場を多数委員がとっていることを示唆していた」(『時の法令』92年6月30日)。


 この下院による調査報告書自体は公刊されており、当時から閲覧することは可能だった。問題なのは、調査に使用された935箱にのぼるという関連資料である。これは下院の規則第36号により、50年間封印されることになっていた。それが開かれる年が〈2029年〉というわけだ。


 もうひとつの『ウォーレン委員会報告書』も大部分は1964年の時点で公刊されていたが、遺体の解剖写真などの医療資料はケネディ家の要請で非公開になっており、さらに大統領の警備、流言飛語、オズワルドの国外での活動に関する調査などは封印されたままになっており、一般の目に触れることはなかった。これらは1964年の時点から数えて75年後にあたる2039年まで封印されることになっていた。



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 『JFK』は、ケネディ暗殺が国家規模の陰謀だということを信じ込ませたかったわけではない。ケネディ暗殺から映画の公開時点で28年が経過していたにもかかわらず、その調査資料全てを目にするためには、まだ28年ないし38年も待たなければならないという一点の事実こそを強く訴えかけたのだ。


 その訴えは、やがて議会を動かし始める。1992年4月、議会でこれらの封印資料の早期公開を求めるスピーチを行ったストーンは、上院議員、下院議員へ働きかけ、それを受けて有志議員によって、JFK法の異名を持つ特別立法案が提出された。そして同年11月、ブッシュ大統領はこの議案に署名し、ケネディ暗殺に関連する全資料を25年以内に公開することを定めた。


 そして迎えた25年後の2017年、ドナルド・トランプ大統領は、当初、全ての書類が公開されるとツイートしていたが、2,800点の機密資料は公開されたものの、CIAなどの機関から一部資料については安全保障の観点から非公開の継続を求められ、同意せざるを得なかった。この非公開に終わった資料については2021年10月までに再検討されることになった。したがって数か月後には、第46代となる新大統領が新たな判断を示すはずである(2021年1月現在)。


 もっとも、こうした資料が全て公開になったところで、史実がひっくり返るようなことは起きないだろうと言われている。それは『JFK』公開時からストーンも悟っていた。


「非公開資料の公開を非常に楽しみにしていますが、ケネディが誰に殺されたのか、動かぬ証拠が出てくるなんて思っていません。そんな馬鹿なことは彼らもしないでしょう。しかし、たとえばジャック・ルビーとオズワルドの関係とか、(中略)オズワルドが二重スパイだったことなどが明らかになれば、少しでも真実を探る手掛かりが増えてくると期待しています」(『シネ・フロント』92年4月)


 逆に言えば、資料公開によってオズワルドが何の背景もなく単独でケネディを暗殺したことが明瞭になる可能性も秘めている。1981年のレーガン大統領暗殺未遂事件を思い出せばいい。何の組織も持たない青年が至近距離から大統領に向けて6発も発砲し、左胸部に命中させていたことを。


 どういった結論が導き出されるにしろ、全体が見えない情報には、陰謀・謀略が囁かれるようになる。全ての資料にアクセスし、誰もがそれを検証する自由こそが重要なのである(もちろん、全てが明らかになっても、実証性に欠ける陰謀論者は後を絶たないだろうが)。


 『JFK』は、現在に至る情報公開に大きな一石を投じたが、もうひとつ忘れてはならない影響を与えたのが〈保存〉という概念である。


 ケネディ暗殺の現場となったディーレイ・プラザ周辺は、撮影時には部分的に風景が変わっていたために美術予算を投じて当時の景観に戻す作業が行われたが、公開後の1993年、近辺の建物を含めたこの一帯がアメリカ合衆国国定歴史建造物に指定された。これによって再開発が流入してくることもなく、事件当時の雰囲気が今も維持されている。


 暗殺の一部始終を記録したザプルーダー・フィルムも、『JFK』によって運命を変えることになった。前述のJFK法によってケネディ暗殺関連の全ての資料が収集されることになり、このフィルムも、ザプルーダー家に代わって国家の管理下に置かれることになった。1994年にはその文化的な価値から、アメリカ国立フィルム登録簿に記載され、永久保存が決定した。


 空間とフィルムは、積極的な保存を働きかけなければ、時の経過とともに跡形もなく消えてしまう運命にある。『JFK』は遠くない将来に失われるであろう空間と映像の重要性を、無言のうちに劇中で示したと言えるだろう。結果的に非公開資料よりも、これこそはケネディ暗殺と謎を永久に語り継ぐ最良の〈物証〉になったのではないだろうか。


 なお、オリヴァー・ストーンは現在、本作が公開されて以降に明らかになった事実を盛り込んだケネディ暗殺をめぐるドキュメンタリーを準備しているという。



前編はこちらから


中編はこちらから


【主な参考文献 ※本記事 前編・中編・後編 含む】

『JFK ケネディ暗殺の真相を迫って』(オリバー・ストーン、ザカリー・スクラ―他・著、中俣真知子、袴塚紀子・訳/キネマ旬報社)、『オリバー・ストーン 映画を爆弾に変えた男』(ジェームズ・リオーダン著、遠藤利国・訳/小学館)、『映画に必要なことはすべてベトナムの戦場で学んだ』(フレドリカ・ホーストマン・著、家田荘子・訳/メディアファクトリー)、『JFK ケネディ暗殺犯を追え』(ジム・ギャリソン・著、岩瀬孝雄・訳/ハヤカワ文庫)、『映画作家は語る』(デヴィッド・ブレスキン・著、柳下毅一郎・訳/大栄出版)、『JFK暗殺の真実 ケネディ解剖医、28年間の沈黙を破る!』(文藝春秋)、『映像の帝国 アメリカ・テレビ現代史』(サイマル出版会)、『キネマ旬報』『スクリーン』『シネ・フロント』『週刊文春』『週刊読売』『時の法令』『Asahi journal』『朝日新聞』『読売新聞』『毎日新聞』『ニューヨーク・タイムズ』、『JFK』劇場パンフレット https://www.nytimes.com/

https://www.washingtonpost.com/


文: モルモット吉田

1978年生。映画評論家。別名義に吉田伊知郎。『映画秘宝』『キネマ旬報』『映画芸術』『シナリオ』等に執筆。著書に『映画評論・入門!』(洋泉社)、共著に『映画監督、北野武。』(フィルムアート社)ほか



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