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『JFK』仕組まれたバッシング、オリバー・ストーンが挑んだケネディ暗殺事件 後編
口コミで広がった正当な評価
公開当初、『JFK』はヒットには程遠かった。上映時間が3時間もあるために劇場の回転数が制限されることも影響していたが、大手マスコミが揃って〈プロパガンダ映画〉と攻撃しては、観客が警戒するのも無理はない。しかし、口コミで映画の面白さが伝わり始めたことで、じわじわと観客動員は増えていった。そして、ヒステリックなマスコミと対象的に、観客は冷静に映画を受け止めていた。
筆者自身の当時の記憶としても、最初は映画が主張する陰謀を信じきっていたが、やがて熱が冷めると、かなり無理のある主張や具体性に欠ける描写に疑問を感じた。これは年齢を重ねて見直す度にいっそう実感するところでもある。しかし、だからといって映画自体の魅力が損なわれたとは思わない。今でも再見すると、つい3時間にわたって引き込まれて観てしまうのは、ストーンの力のこもった演出と、技巧を凝らした編集で映画としての面白さは色褪せていないからである。犯人やトリックを知っていても飽きずに眺めてしまうミステリー映画があるが、『JFK』の面白さは、まさにそうした面白さに尽きる。
公開直後の猛烈な批判が一段落すると、大手新聞の投書欄には冷静な読者=観客からのこんな言葉が載るようになった。
「ストーンの歴史の見解が真実か否かは問題ではない。むしろ彼の論旨は、リー・ハーヴェイ・オズワルドがケネディ大統領を暗殺した頭のおかしい単独狙撃犯だという公式の断定を額面通り受け取るべきではないということにある。さらに、彼自身の歴史の見方もやはり論争の余地ないものとして鵜呑みにされるべきではなく、その考えにストーンも同意すると私は思う」(「ワシントン・ポスト」92年1月11日)
『JFK』(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
そして、ポーリン・ケイルと並んで有名な映画評論家のロジャー・イーバートからも擁護の声が挙がった。「ユニヴァーサル・プレス・シンディケイト」(92年1月15日)でイーバートは、「私自身は『JFK』を素晴らしい映画体験だと思うし、観客もそれに同意しているようだ。しかし、この映画の政治見解と娯楽価値を区別することが重要である」と、政治ジャーナリストによる攻撃を牽制し、「彼らは『JFK』を観たのだろうか? 観てどう感じたのか? 俳優たちの演技や映画の持つエネルギーや、既成のドキュメンタリー・フィルムと新たに作り上げたシーンの巧みな組み合わせをどう思ったのだろう? 百八十八分間のなかに事実とフィクションと推測を緻密に織り込んで観客の興味を引き続けるストーンの技術的力量を賞賛しなかったのか?」と、映画的な魅力がつまった作品であることを指摘した。
事実、賞レースが始まると、第49回ゴールデングローブ賞ではオリバー・ストーンが監督賞を受賞し、続く第64回アカデミー賞では作品賞・監督賞をはじめ8部門でノミネートされ、撮影賞・編集賞でオスカーを獲得した。まさに映画としての力強さを立証してみせたのだ。そして、映画の力はマスコミからの攻撃を跳ね除けて、現実を動かし始めた。