フレディの建てた家
『エルム街の悪夢』を制作・配給したニュー・ライン・シネマは、70年代に千葉真一の『激突!殺人拳』(74)や、ジョン・ウォーターズの伝説的カルト映画『ピンク・フラミンゴ』(72)を配給するなど、小規模ながら「尖った」ことでも有名な会社であった。
しかし『エルム街の悪夢』シリーズのヒットにより、メジャースタジオと渡り合うほどの急成長を遂げる。この快進撃は、ニュー・ライン・シネマを「フレディの建てた家」と業界内であだ名させることとなる。
この成功は、ニュー・ライン・シネマ設立者であり『エルム街の悪夢』プロデュースを務めたロバート・シェイの先見性や審美眼の高さに所以するところだ。その能力は『エルム街の悪夢』シリーズの監督を並べるだけでも明らかだろう。
『エルム街の悪夢2 フレディの復讐』予告
『エルム街の悪夢2 フレディの復讐』(85)は、後に『ヒドゥン』(87)を監督するジャック・ショルダー。
『エルム街の悪夢3 惨劇の館』(87)は、ジム・キャリー主演『マスク』(94)を監督するチャック・ラッセルと、脚本に『ショーシャンクの空に』(94)監督のフランク・ダラボン。
『エルム街の悪夢4 ザ・ドリームマスター 最後の反撃』(88)は『ダイ・ハード2』(90)監督のレニー・ハーリンと、脚本に『42 〜世界を変えた男〜』(13)監督のブライアン・ヘルゲランド。
『エルム街の悪夢5 ザ・ドリームチャイルド』(89)は『プレデター2』(90)監督のスティーブン・ホプキンス。
『エルム街の悪夢 ザ・ファイナルナイトメア』(91)はシリーズ1作目から裏方としてシリーズ全作に関わり、後に『 タンク・ガール』(95)を監督するレイチェル・タラレイと、脚本に『マグノリア』(99)や『ソーシャル・ネットワーク』(10)をプロデュースすることとなるマイケル・デ・ルカ。
最終作『エルム街の悪夢 ザ・リアルナイトメア』(94)でウェス・クレイブンがシリーズ監督の復帰をするまで、後の「錚々たるメンツ」を起用していったのだ。
『エルム街の悪夢』シリーズのおかげで潤沢な製作資金を得たニュー・ライン・シネマは得意なホラー映画と平行してコメディや社会派ドラマ。また『ブギーナイツ』(97)や『セブン』(95)といった作家性の強い作品なども製作していき、遂に『ロード・オブ・ザ・リング』(01〜03)シリーズを手がけることとなる。
つまり、フレディ・クルーガーがいなければ、デヴィッド・フィンチャーやポール・トーマス・アンダーソン、そしてピーター・ジャクソンらの今の活躍も無かったかもしれないのだ。
文: 侍功夫
本業デザイナー、兼業映画ライター。日本でのインド映画高揚に尽力中。
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