『ヒドゥン』あらすじ
ロサンゼルス。ロス市警刑事トム・ベックは、強盗殺人事件の犯人を逮捕する。病院に収容された強盗犯の口からは奇怪な生物が這い出し、同室の患者の口の中に入り込む。重体患者であった男は起き上がり、大量の銃とスポーツカーを奪って逃走。その頃ベックの前に、FBI捜査官のロイドと名乗る男が現われ、この一連の事件を追っていると告げる...。
テッド・チャンの小説「あなたの人生の物語」を原作にした映画『メッセージ』に登場する宇宙人が斬新だったのは「全ての時間が並列に進行している」という、地球人とは全く違う思考体系を持っていたところだ。
映画の中に登場する宇宙人の多くは、地球で生きる生物に似た思考体系しか持っていない。たとえば『プレデター』(87)シリーズの宇宙人は「狩りを楽しむために色々な星を渡り歩いている」という、実際地球にもいるタイプだし、『エイリアン』(79)シリーズのエイリアンは「種族を繁栄させるために生き物なら何でも襲いまくる」という理性の無い獣じみた設定だが、これもほぼ人間の特性だと言ってしまえるだろう。
『ヒドゥン』予告
とはいえ、それらを断罪する気は無い。映画なんて所詮虚構だ。ならば楽しいかどうかで宇宙人の思考体系を決めたっていい。そう考えれば『ヒドゥン』(87)に登場する宇宙人の思考体系ほど素晴らしいものは他に無いだろう。
それは「イカすビッチと燃費の悪いスポーツカーとハードロックが大好き」というものだ。
Index
マイアミ・バイスの影響
犯罪歴が無い温厚で知られた普通の男が、突如強盗殺人を繰り返し始める。ロス市警のベックはその男を追い詰め逮捕するも、その際に重傷を負わせ、結局死なせてしまう。釈然としないところへFBI捜査官ギャラガーが到着。犯人死亡の知らせを聞いてもなお、この事件はまだ終わっていないと言う。訝しながらも実際に同じ様な事件が、しかも同じ病室にいた以外に何の接点も無い重病人によって起こされる。ベックは多くを語ろうとしないギャラガーに振り回されながら、捜査を進めていく。
これが『ヒドゥン』のあらすじだ。FBI捜査官と地元市警の刑事のペアという設定はいわゆる「バディもの」と呼ばれる刑事ものフィクションの定石だ。本作公開当時を鑑みれば、おそらくTVシリーズ『マイアミ・バイス』(84〜89)の影響が強くあっただろう。
フェラーリを乗り回し、羽振りの良さそうなイタリアンスーツを着こなす刑事のソニーとリコが、最新ヒット曲をBGMに犯罪組織と撃ち合いを繰り広げる。その派手でクールなスタイルと、リアルなコンバット・シューティングが人気を呼び、シリーズは大ヒットを記録する。
『マイアミ・バイス』の場合、刑事2人のスタイルは麻薬組織へのおとり捜査や潜入のため、というエクスキューズがあった。つまり、コンバット・シューティング同様「リアルさ」追求の必然からである。
一方『ヒドゥン』では、フェラーリやハードロックを「好きだから」という潔い理由で取り入れ、作品をギラギラとした魅力で彩るのである。