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『宇宙戦争』スピルバーグが上書きする、テロリズムの不条理な恐怖

(c)Photofest / Getty Images

『宇宙戦争』スピルバーグが上書きする、テロリズムの不条理な恐怖

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名優が体現する、戦争よりも大切なもの



 H・G・ウェルズが「宇宙戦争」の中で、祖国の帝国主義に対しての懐疑的な見解を描いたように、スピルバーグはイラク戦争やアフガン紛争など米国が他国で戦争することに対して、『宇宙戦争』の中で疑問を呈している。


 「家族を愛することが、他国で戦争することよりもはるかに重要だということを分かって欲しい」とは、スピルバーグの弁だ。この言葉の重みは計り知れない。スピルバーグの『宇宙戦争』にはシンプルにして骨太な反戦のメッセージが込められている。迫り来る異星人を撃退するわけでもなく、自分と家族を守るためだけに逃げ続ける、という本作の物語をみてもそうだ。


 労働者階級の父親役を演じた主演のトム・クルーズは、「僕らはこの映画で、自分の子供たちへの思いを表現出来ればいいな、と考えているんだ。どれほど子供たちを愛しているか、ということをね」と語る。


『宇宙戦争』予告


 突如として日常を奪われた家族の目線から描かれる本作は、コロナ禍に揺れる現在の状況にも通じる、共通のメッセージ性を感じてしまう。当たり前の日常を奪われた私たちが今、家族を守るためにできることはなにか。この映画には、その疑問への答えが含まれている。


 本作が描き出すのは家族愛や人間の逞しさといった純粋な部分だけではない。極限状態に置かれた人々は、ときに予想の付かない行動に出る。それが人間の二面性であり、恐れるべき部分だ。本当に恐ろしいのは眼前に迫る侵略者ではなく、あなたのすぐ近くにいる隣人だったりする。そういうふうな予想外の恐怖もまた、本作には多分に盛り込まれているわけだ。世界がまさしく崩壊していく中で、クルーズが演じる港湾労働者のレイ・フェリアーは、子どもたちを守るために必死の逃避行を繰り広げる。


 人間の愚かさの象徴として登場するのが、名優ティム・ロビンスが扮する失意の生存者オグルビーだ。オグルビーも多くの人と同じで、家族を失った被害者のひとりであるが、家族を亡くした喪失感から正常な精神ではないキャラクターだ。しかしオグルビーの存在は、父親失格の主人公が親としての責務に目覚めるための、重要なマクガフィンとなる。


 本作の物語は、父親になり損ねた男が父親になるまでの旅であり、究極の試練を描いた作品だ。彼は、この悪夢のシナリオを生き残るべく、父親としての行動をとらなければならない。次第に彼は、父性を覚醒させてゆき、愛する家族を守るための理想の父親像を体現する。


 スピルバーグは、「愛する者たちを守るため、生きるために、逃げることが必要になってくるのです」と語る。それこそがまさに家族愛であり、本作が反戦映画として評される理由なのであろう。




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