(c) 2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
『アメリカン・スナイパー』ハリウッドで大論争!イーストウッド最大のヒット作
2021.01.13
戦争賛美か否か。ハリウッドを巻き込んだ大論争
前述した通り、完成した『アメリカン・スナイパー』は世界興収5億4,742万ドルを超える大ヒット作となり、クリント・イーストウッド監督作品史上最も稼いだ作品となった。同時にその内容をめぐって、保守派とリベラル派との間で「戦争賛美か否か」の大論争を巻き起こすことになる。
女優のジェーン・フォンダは「パワフル」と賞賛コメントを出す一方、映画監督のマイケル・ムーアはTwitterで「私の叔父は第二次世界大戦中、スナイパーに殺された。彼らは後方からから射撃する臆病者だと教わった。スナイパーはヒーローではない」と発言。ロック・ミュージシャンのキッド・ロックから「ファックユー、マイケル・ムーア!」と非難される事態に陥った。
『アメリカン・スナイパー』(c) 2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
果たしてこの映画は戦争賛美なのか、否なのか?イーストウッド自身のコメントを参照してみよう。
「私はこれまでにも戦争を扱った映画を作ったが、このストーリーは、クリスの戦闘上の功績と、彼の人生の個人的な側面がどう交わるかを描いているので、私はとても面白いと思ったし、個人的な面を掘り下げることで彼がより興味深い人物になった。戦争がひとりの人物に与えるダメージが明らかになるが、家族全体に与えるプレッシャーも描かれている。戦場へ送り込まれるときに、どれだけの危険があるのかを思い出し、そして、彼らが払う犠牲を再認識することは大切だ。だからこそ私は、このストーリーを語ることがとくに意味深いものだと思ったんだよ」
(プロダクションノートから抜粋)
イーストウッドはクリス・カイルのイラク戦争における功績をドラマティックに描きつつ、同時に彼の精神が崩壊していく様子もヴィヴィッドに描いている。クリス・カイルのスナイパーとしての才能は、アメリカの軍事戦略に大きな成果をもたらしたと同時に、彼自身を蝕ませることになったのだ。それは是々非々ではなく、目の前にある現実の照射として捉えるべきだろう。イーストウッド自身、ハリウッドでは珍しい共和党支持者として知られているが、同時にイラク戦争反対論者でもある。
最後のエンドクレジット。そこにはスコアも主題歌もなく、ただただ圧倒的な静寂が劇場を包み込む。あらゆるエモーションを拒否するかのようなラストに、我々はイーストウッドの断固たる想いをみるのだ。
文: 竹島ルイ
ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。
『アメリカン・スナイパー』
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